【Mr.ノーバディ】コラム。【ハードコア】(2019)の監督で知られるイリヤ・ナイシュラーと【ジョン・ウィック】シリーズの脚本家であるデレク・コルスタッドが送る、ハードボイルド・アクション映画。【スノー・ロワイヤル】(2019)などでおなじみのリーアム・ニーソンが演じるキャラクター彷彿させるような、新たなる一匹狼(ではありませんが…)誕生です!
【Mr.ノーバディ】あらすじ
金型工場で働く郊外に一軒家をかまえ、妻と子ども2人と共に平凡な毎日を送っていたハッチ・マンセル(ボブ・オデンカーク)が本作の主人公です。
路線バスで会社に毎日向かい、データ入力をして、火曜日にゴミ出し。
ルーティンワークをこなす単調な毎日です。
そんなある日の夜、物音に気づいたハッチが1階に向かうとふたりの強盗が忍び込んできていました。
息子のブレイク(ゲージ・マンロー)がひとりを抑え込みますが、もうひとりが銃を向けて金を出せ、と脅してきます。
ゴルフクラブで殴りつけようとしたハッチですが、突然やめて息子にも抑え込んだ強盗を開放するように合図します。
基本カード決済のマンセル家、現金はほんの少ししかありませんでした。
強盗は、わずかばかりの小銭をもって退散していきますが、やられっぱなしの父親にブレイクは呆れます。
ゴミ出しは間に合わず、妻ベッカやブレイクとの関係もギクシャクしているハッチ。
唯一、娘だけが優しく接してくれますが、彼女のネコちゃんブレスレッドが強盗が入った日から見当たらなくなっていました。
それについに立ち上がるハッチの行動は――?
最強の男、ここに誕生
ルーティンワークをひたすらこなすハッチの1週間が展開される冒頭は少し笑ってしまうシーンですが、それが崩れるのが強盗が現れたときからです。
警察にも嘲笑られる始末でしたが、彼が何故抵抗をやめろといったのかは後にわかります。
一匹狼系強いオヤジ映画によくあるパターンとしては、愛するものを奪われてやむなく復帰、もしくはリベンジを果たすといったものが多い気がしますが本作は異なります。
実は「本来の自分を押し殺していたため」冴えない毎日に飽き飽きしているような中年に見えるという斬新さ。
本来の自分を、バスでのチンピラたちとのケンカをきっかけに徐々に取り戻していく彼の生き生きとした姿!
秘密がなくなったあとのハッチの堂々とした態度は、今まで失っていた自信を取り戻したようでした。
「普通」の生活を手に入れるために、ハッチがどれだけ精神的に縛っていたのかがよく見えてくるかと思います。
BGMもルーティンワークシーンのときよりもだんだん色がついていき、ルイ・アームストロング「What A Wonderful World」(*自宅に火を放ちながら流れる楽曲ではない気もしますが、ハッチが開放されたという意味では正しい)、カーチェイス時のパット・ベネターの「ハートブレイカー」、テーマ曲のように流れる「Don’t Let Me Be Misunderstood」など選曲もバッチリです。
「超人」ではない
ハッチはたしかに「会計士」という各機関で最も恐れられている存在であったためにとんでもなく強いですが、あくまで人間です。
ここが本作のまたいいところで、相手と戦闘した際に決して無傷ではないのです。
バスでの戦闘、気絶からの車での拉致、VSロシアンマフィアのユリアン、各シーンで殴られ蹴られ刺されの満身創痍です。
大人数対ひとりなのでそれが当たり前なのですが、その姿こそがあくまでも視聴者と同じ人間である、と実感させ親近感を湧かせているのだと思います。
そして「ジョン・ウィック」シリーズのデレクが脚本を担当しているだけあって、アクションシーンもとても躍動感溢れるドキドキするシーンに仕上がっています。
買い取った工場アジトの仕掛けの手作り感は【007 スカイフォール】(2012)の後半を彷彿させるようです。
何者でもない
「何者でもない」主役を演じているのは【ブレイキング・バッド】、スピンオフドラマ【ベター・コール・ソウル】シリーズで登場していたソウル・グッドマンを演じていたボブ・オデンカーク。
【ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語】(2019)の四姉妹の父であるミスター・マーチなども演じていますが、やっぱりソウル・グッドマンのイメージが強いです。
「何者でもない」というのがキーワードである本作の主人公として、いかにも圧倒的強さがにじみ出ているような人間では意味がありません。
意外な人物として、お調子者の弁護士を演じていたボブのキャスティングは最高だったのではと思います。
また、ハッチの父である元FBIのデヴィッドを演じているクリストファー・ロイドは最高です。
老人ホームでのんびり暮らすおじいちゃんが、あんなにぐいぐい本編に関わってくるとは驚きでした。
【Mr.ノーバディ】まとめ・感想
字幕の言葉使いも秀逸な作品だと感じる映画です。
ジト戦での父・デヴィッドとハッチのやりとりである「父さん!」「倅!」の言葉を見て、「日本語に「倅」という言葉があってよかった」と、しみじみ感じました。
家族に手を出したらロシアンマフィアさえも恐れずに報復する父も恐ろしいですが、特にラスト、3ヶ月後に新しい家を探して妻ベッカと内見に来ているシーンでのこと。
「地下室はある?」とハッチの代わりに尋ねていましたが、それを見る限りハッチのすべてを知って、危険に晒されるかもしれない可能性があるかもしれないけれど、共に生活をしようとしているのが伺えます。
無事に夫婦間のギクシャクは解消されたようです。
内見の案内人にかかってきた電話のことを考えると、ハッチには平穏な生活は難しそうですが……。
本人としては今後も生き生きしそうですが、マンセル家の幸せな日常生活を祈ります。
©2021 Universal Pictures