【マリグナント 狂暴な悪夢】ジェームズ・ワン監督が送る挑戦的で強烈なホラー。

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映画【マリグナント 狂暴な悪夢】は、2021年に公開されたジェームズ・ワン監督の待望作です。DV夫の死後、連続殺人現場を目撃するようになった主人公の前に、幼い頃の想像の中の友人が現れ……。【マリグナント 狂暴な悪夢】は、これまでのホラー映画とは違う新しい恐怖を描いた作品。想像を超えた悪役の登場で、これまで以上に残酷さと恐怖感が堪能できます。

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【マリグナント 狂暴な悪夢】あらすじ

1980-1990年過去のシミオン病院にて、「ガブリエルが脱出した」という職員の話を聞いたウィーヴァー医師(ジャクリーン・マッケンジー)とヴィクター医師(クリスティアン・クレメンソン)は、急いでガブリエルの元へ向かいます。

ガブリエルが脱出を制止する看護士達を次々と殺し、暴れているところでウィーヴァー医師が撃った麻酔銃によって再び捕獲されました。

ガブリエルはラジオを通じて「皆を殺してやる」と話すと、ウィーヴァー医師は「癌を取り除かなければならない時になった」と口にします。

そして現在、妊婦であるマディソン(アナベル・ウォーリス)は、夫のデレク(ジェイク・アベル)と言い争って揉み合いになり、頭に怪我をしてしまいます。

デレクが慌てて氷を取りに行っている間、マディソンは部屋に鍵をかけてしまいました。

その日の夜、マディソンはデレクが誰かに殺されるような悪夢を見て目覚めます。

心配になったマディソンは、デレクを捜しに1階に行くと彼は首を折られて死んでいました。

すると、すぐ横から誰かが現れ、マディソンの所に飛びかかって来ました。

驚いたマディソンは階段を駆け上がり部屋のドアを閉めようとしましたが、相手の力の強さに吹き飛ばされ意識を失ってしまいます。

病院で目覚めたマディソンは、妹のシドニー(マディー・ハッソン)からお腹の赤ちゃんが流産したと聞き、ショックで泣き崩れます。

そんななか、デレクの殺人事件の捜査を担当する事になったショー刑事(ジョージ・ヤング)はシドニーに、マディソンはデレクに家庭内暴力を受ける生活の中で、既に流産も経験していた旨を伝えていました。

2週間後、自宅に戻っていたマディソンが洗濯しようとしたところに突然、女性が叫びながら現われます。

マディソンは驚き床に座り込んだとたん、周りの景色が他の家に変わり始めました。

それと同時にデレクを殺した人物と同一人物が現れ、女性を残忍に殺したのです。

マディソンは、その場で意識を失ってしまいました。

意識を取り戻したマディソンが居たのは、自分の自宅でした。

実は、先程殺された女性はウィーヴァー医師だったのです。

ウィーヴァー医師の家で幼い少女の写真を拾ったショー刑事は、過去についての調査を始めます。

夜になり、ウィーヴァー医師が死んだという知らせを聞いたヴィクター医師の家では、人の気配がしていました。

一方で、マディソンは横になっていたベッドの上で目を開くと、目の前にはヴィクター医師が眠っており、以前のように背景が変わり始めます。

すると再び、ヴィクター医師がウィーヴァー医師のように殺されるの見たマディソンは叫びながら目覚めます。

翌朝、マディソンとシドニーは警察署を訪ね、ショー刑事に「ヴィクター医師の死ぬ姿を夢で見た」と打ち明けました。

ショー刑事たちは半信半疑でしたがマディソンが言う住所を訪ねてみたところ、ヴィクター医師の無惨な死体を発見したのです。

再び警察署で取り調べを受けたマディソンがトイレに行くと、突然電話がかかって来ます。

電話ではある男がマディソンを「エミリー」と呼び、「一人ずつ全員殺す」と言い、マディソンは驚きながらも「ガブリエル」と言う名を呼びます。

彼女は、その男が「ガブリエルである」ことを思い出したのです。

マディソンは、シドニーを連れて母親(スザンナ・トンプソン)の家に行き、自分の過去の録画ビデオを確認してみる事にしました。

するとそこには、驚くことに幼いマディソンが見えないガブリエルと話している映像が映し出されたのです。

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監督と出演者

監督はホラー・スリラー・ミステリーの分野で活躍するジェームズ・ワン

ジェームズ・ワン監督は、オーストラリアの映画プロデューサーであり脚本家、映画監督。

2000年メルボルン地下映画祭(MUFF)で、最優秀ゲリラ映画を受賞したシャノン·ヤングと共に、初の長編映画【Stygian】(2000)を製作しました。

2003年以前、ジェームズ・ワン監督とリー・ワネルは、彼らの夢とホラーからインスピレーションを得てホラー映画の脚本を書き始め、リー・ワネルを主演にした低予算の映画を撮影しスタジオに売り込みました。

こうして作り上げたその映画が【ソウ】(2004)でした。

国内外のボックスオフィスで圧倒的な成功を収め、【13日の金曜日】(1980)の映画に続き、高い興行収入を上げた【ソウ】(2004)は、続編である【ソウ2】(2005)から7作目までシリーズ化され、【ジグソウ:ソウ・レガシー】(2017)、【スパイラル:ソウ オールリセット】(2021)まで、のホラーフランチャイズを確立しました。

その後も、主に恐怖のジャンルで活動し、【デッド・サイレンス】(2007)、【狼の死刑宣告】(2007)を世の中に送り出し、新たなホラーシリーズ【インシディアス】(2010)を手掛けます。

【インシディアス】は世界中で大ヒットを受け、続編【インシディアス 第2章】(2013)、【死霊館】ユニバースの第1作目【死霊館】(2013)、続編【死霊館 エンフィールド事件】(2016)と、立て続けにヒット作を連発。

また、ホラー映画以外には【ワイルド・スピード】(2001)シリーズの7作目である【ワイルド・スピード SKY MISSION】(2015)や、DCコミックのスーパーヒーロー映画【アクアマン】(2018)も手掛けています。

アトミックモンスタープロダクションの設立者であり映画やテレビプロジェクトを制作、世界で36億ドル以上の興行収入を記録(2021年現在)するなど、監督として注目されている人物です。

マディソン・ミッチェル

登場人物:お腹の赤ちゃんを失った喪失感と家族に対する執着、想像の中の友達ガブリエルによって混乱に陥るなど、次第に精神が破壊されていきます。

キャスト:アナベル・ウォーリス

出演作:【Dil Jo Bhi Kahey…】(2005)、【THE TUDORS~背徳の王冠~】(2009-2010)、【X-MEN:ファースト・ジェネレーション】(2011)、【ピーキー・ブラインダーズ】(2013-2019)、【アナベル 死霊館の人形】(2014)、【ザ・マミー/呪われた砂漠の王女】(2017)など。

ケコア・ショー刑事

登場人物:デレク殺人事件を捜査しながら、ガブリエルの正体を追う刑事。

キャスト:ジョージ・ヤング

出演作:【Casualty】(2005)、【Postcards from London】(2009)、【Jhootha Hi Sahi】(2010)、【A Bread Factory: Part One】(2016)、【Containment】(2016)、【Home】(2018)など。

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多様なホラージャンルの混合体

【マリグナント 狂暴な悪夢】は、見方によってはジェームズ・ワン監督の映画の全ての軌跡を辿る事が出来る映画です。

【ソウ】(2004)がジグソーとトラップに閉じ込められた被害者同士のゲームだったとすれば、【マリグナント 狂暴な悪夢】は監督と観客の間のゲームです。

ホラー映画によく登場する、何処か秘密が隠されているような病院から始まったミステリーは、陰鬱でありながらも何かしらの事情を持ったマディソンに、その隠れた秘密を追わせます。

本作には、ジャンプスケアーを始め、鳥肌が立つほどの音響効果や一部編集された古典的な恐怖を漂わせつつ、ジェームズ・ワン監督特有のユーモアが含まれています。

ガブリエルの血と肉が飛び交う殺人と”彼”を追う刑事は、サスペンスとミステリー、ホラーに加え、ジアロジャンル、古典フランケンシュタインの映画のジャンルをミックスしたと言えるほど、非常に残忍で奇怪に描かれています。

ジアロジャンルとは、イタリアのホラー映画ジャンル。

【サスペリア】(1977)のイタリアホラーの巨匠ダリオ・アルジェント監督の映画をハリウッドで借用したように、イタリアホラーとアメリカホラーの結合は【マリグナント 狂暴な悪夢】を作る原動力になったようです。

映画のジャンルの境界を崩したように見えますが、それぞれのジャンルを設定してリードする独特の本作は、ジェームズ・ワン監督が最も重点を置く様々なメリットが浮き彫りになっていました。

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独特な映像技術とミステリー要素

本作の映像美は華麗で、画面の転換や幽霊の視点から眺めるようなカメラワーク、数多くの小物と心理的圧迫による恐怖感が本当に素晴らしいです。

マディソンの家ではファンタジーとハウスホラーの雰囲気、シドニーが手掛かりを探す場面ではメディカルホラーの陰惨さと奇怪さがよく現われており、テーマに合った映像美に包み込まれていました。

また、奇怪なガブリエルの姿と強烈なサウンド、赤い照明で演出した雰囲気などは圧倒的スリル感があり、ゴアシーンの演出には伝統的な特殊メイクとアニメーション、幻影演出にはCGが積極的に活用されるなど1980年代と2020年代のホラー映画の雰囲気が入り混じっています。

冒頭では心霊、悪魔、悪霊召喚といった雰囲気の演出により恐怖心と緊張感を煽りましたが、全ての秘密が明らかになったシーンでは、驚愕と衝撃に反転を加えグロテスクなビジュアルアクションに変身させるなど、ジェームズ・ワン監督の特徴を感じ取る事が出来ます。

あまりにも奇怪で、衝撃的なおぞましい場面をそのまま描写するハリウッドスタイルに色味を加え、残酷さと恐怖の意味を盛り込んだハリウッドホラーの新たな創出がこの【マリグナント 狂暴な悪夢】であり、ジェームズ・ワン監督の新しいホラー映画と言えるでしょう。

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映画の中の背景

映画の背景がシアトルという点も、見どころポイントの一つとなっており、シアトルの地下都市アンダーグラウンドはグレートシアトルファイア以降、地下に敷かれたシアトルの旧都市を指しています。

グレートシアトルファイアとは、1889年6月6日アメリカ合衆国ワシントン州シアトルの中央ビジネス地区全体を破壊した火事。大火は午後から夜にかけて、グレートと同じ夏の間、1日未満燃え続けた。現在シアトルは、元の通りの高さから20フィート(6.1m)上にあるレンガ造りの建物を使用して、素早く再建され、その人口は再建中に膨張し、新しく承認されたワシントン州で最大の都市になった。

マディソンを現在のシアトルとして、隠れているガブリエルはシアトルの地下都市であるという、シアトルという都市そのものを形象化したようにも見えます。

また、ガブリエルという一種の地下の都市の存在を正確に知っている実の母親が、アンダーグラウンドツアーのガイドをしているのも興味深く描写されています。

*アンダーグラウンドツアーは、かつて存在した街が地下に眠るユニークなシアトルの歴史ツアー。シアトルの中でも最も珍しいツアーの一つで、地下(アンダーグラウンド)はシアトル発祥の地、パイオニアスクエアにある。

同様に、地下都市に忍び込んだガブリエルを追い掛けるショー刑事は、地下都市に入りガブリエルが実在する事を突き止めました。

この地点は、映画が本格的な深層に入るスタート地点となっており、映画を貫くテーマにシアトルを背景として説明した面も見事です。

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“Malignant”とは

【マリグナント 狂暴な悪夢】の原題は、“Malignant”であり、そのタイトルこそが映画に対するヒントを示しています。

【ソウ】(2004)が「そう」であるように、【マリグナント 狂暴な悪夢】もやはり映画のタイトルに含まれている様々な意味が理解できると思います。

“Malignant”は、”悪性の、悪意に満ちた”という意味と、“悪性・進行性に悪化して沈殿し、転移して死に至る性質を持つ腫瘍”という意味を同時に持っており、簡単に言えば”癌”を意味するもの。

映画の序盤にて、医者であるウィーヴァー医師の「癌を切り取らなければならない時になった。」と言う台詞は、主人公の体内の癌の塊であり、悪の存在であるガブリエルを象徴する一種の言葉なのです。

このように、【マリグナント 狂暴な悪夢】は、小児病棟、手術、養子縁組、殺人事件、地下世界など、ストーリーを暗くするジャンルと要素を全てを取り揃えた映画です。

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女性に対する物理的、精神的暴力

【マリグナント 狂暴な悪夢】は、女性に対する物理的、精神的暴力に抵抗する女性キャラクターを通じて、ホラージャンルの役割を果たしています。

暴力的な男性から脱し、物理的にも精神的にも自由を獲得しようとする女性の姿は、映画の主人公であるマディソンを通じて表現される一方、妊娠した妻にも暴力を振るう事をためらわないデレク、マディソン周辺の人物を殺害するガブリエルは、直接的間接的にマディソンに暴力を振るう男性陣です。

特にガブリエルの場合、ガスライティングのような精神的な暴力を通じ、マディソンの身体まで自分の意志の下に置いています。

これは、家庭内暴力やDVなどの暴力によって苦しむ女性たちの状況を描いています。

ガスライティングとは、状況を操作して相手が自らを疑わせ判断力を失わせる情緒的虐待行為。

マディソンは物理的、精神的暴力を振るってきた男性の抑圧、特に精神的抑圧を乗り越えてガブリエルを閉じ込め、暴力から抜け出したのです。

また、マディソンは被害者として描かれることに留まらず、予めガブリエルの脅迫にも備えて自ら積極的な行動で乗り越えました。

このようなことから、本作では女性が女性として、そして自分自身として回復していく姿を見せているのです。

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ガブリエルとは

映画では終始、ガブリエルは想像上の友達なのか、それとも別の人物なのかを示しながらストーリーが進んでいきます。

映画序盤の、「癌を切り取らなければならない時になった。」というウィーヴァー医師の暗示的な台詞と、想像の中の友達であるガブリエルの背中を登場させたシーンはミステリーの伏線を敷いていました。

映画のラストで正体が明らかになり、血の祝祭が始まる瞬間、ガブリエルの奇妙ながらもスピード感あるアクションと共に、数十人の人を多様な方法で残酷に殺害していくシーンは血と肉と骨の饗宴そのもので、この映画の多くある見所ポイントの一つでもあります。

マディソンの身体に寄生した魂を支配する復讐の天使、闇の天使である悪魔ガブリエルは、ジェイソン・ボーヒーズやフレディ・クルーガーの後を継ぐ、新たに誕生した最も恐ろしいヴィランかも知れません。

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シャム双生児

本作では、一つの体を二つの精神が使い分けられるというテーマをシャム双生児に代入しており、奇怪なクリーチャー映画でありながら悲劇的な雰囲気を演出しています。

医師は幼いマディソンの身体に手をつけなかったため、そのままガブリエルがマディソンの身体に縫合してしまいました。

ガブリエルは幼いマディソンの中で生き、”想像の中の友達”という存在感はあるものの姿を現すことは出来ませんでしたが、殴打されたのをきっかけに目を覚まします。

まさに【トータル・リコール】(1990)で突然変異したクアートのように、一人が身体を支配するともう一方は精神の空間に留まるという状態です。

ただ、クアートは知的で柔順なのに対しガブリエルは暴悪で残酷な性格

奇形腫瘍のような形でマディソンの背中に寄生するシャム双生児ガブリエルが目を覚ますと、マディソンの身体が反対方向に動き、無意識のうちに女性とは思えないような強力な力を最大値に発揮するのです。

つまり、全て一つの身体を二つの精神で使い分けており、一人が目を覚ますともう一方が支配するということ。

何かに食い込まれたり侵入されたりするのではなく、双子として生まれ、ひとりが寄生する形です。

見た目は女性ですが、彼女の中に隠されていた奇怪な姿はゾクッとする斬新な恐怖として描かれています。

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家族愛

この映画では、家族とは単に血の繋がりだけでないということを教えてくれると同時に、現代で見られる変化を求める道徳が恐怖ジャンルの枠を借りて語られています。

ガブリエルとの兄妹愛か、シドニーとの姉妹愛かの中で、マディソンにとって誰が本当の家族であるかを考えさせてくれました。

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結末に隠された謎

ガブリエルはマディソンと脳を共有し、彼女の視点を調整して自分の望みを叶える方法で彼女の行動をコントロールしていました。

マディソンに不自由なく平凡な日常生活を過ごしていると信じさせると同時に、彼女の肉体を統制して自分の望みを叶えるのです。

周りの電灯を調節したり、電波に乗ってラジオで自分の声を発信して、彼女の肉体の力を大きく借用する役割をしたりもします。

マディソンがガブリエルと最後の戦いでは、家族と力を合わせて彼の意識を封印しました。

こうして彼女はガブリエルから抜け出し家族と幸せな日々を迎えようとしたものの、最後に消えた電灯が点きません。

これは、勝利は彼女が見ている錯覚であり、実はまだガブリエルが彼女の見方を調節しているから火は点いていないということや、マディソンがガブリエルの能力を使えるようになったという解釈も考えられます。

全ては、ガブリエルが作った錯覚なのかも知れません。

ハッピーエンドに見えたものの、実はまだガブリエルは生きている!?

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