映画【エンプティ・マン】は、アメリカで制作された2020年のホラー映画。2014年と2018年に発表したグラフィック・ノベルの実写版で、マーベルコミックスの【デッドプール】シリーズや【ヴェノムバース】シリーズなどの漫画の作家であるカレン・バンによって物語が書かれ、ヴァネッサ・R・デル・レイによってイラストが描かれています。
2005年に設立された中小規模の出版社であるBOOM!スタジオを通じて出た作品であり、強烈なサスペンスとして映画が誕生しました。10代の子供達が消える村で、失踪事件を追う元警察官が、都市怪談での存在と言われていたエンプティ・マンによって、科学的には説明不可能な超常現象を経験するようになるホラーを描いています。
あらすじ
10代の子供達の相次ぐ失踪事件で恐怖に陷ったアメリカ中西部のとある田舎町に、<夜に橋の上で空瓶を吹きながらエンプティ・マンと唱えると、エンプティ・マンがやって来る>という都市伝説がありました。
そして、その都市伝説を信じなかった若者達が次々と失踪していきます。
元警察官のジェームズ・ラソンブラ(ジェームズ・バッジ・デール)は、妻と息子を悲劇的な交通事故で失ってしまい、荒んだ生活を送っていました。
そんなある日、隣人の娘アマンダ(サシャ・フロロヴァ)が失踪したと聞いたジェームズは、アマンダを見つけるため事件を調査し始めます。
調査を進めていくうちに、エンプティ・マンと彼にお供する宗教団体が、子供達の失踪に関与していると気付いたジェームズはカルト研究所に潜入し、そこで保管されていたファイルの中に自分の名前を見つけます。
橋の上で空き瓶を吹きエンプティ・マンに近付いていったジェームズは、命を脅かされる恐怖と向き合い……。
監督と出演者
デイヴィッド・プライアー監督
監督及び脚本は、本作で長編監督デビューとなったデイヴィッド・プライアー。
1969年1月6日、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ケンブリッジ生まれで、ダニエル・クレイグ主演の【The Vanger Archives】(2012)や【キャプテン・フィリップス】(2013)などのビデオドキュメンタリーではプロデューサーを務めました。
ジェームズ・バッジ・デール
ジェームズは、失踪した少女を捜索していく元警察官(引退)。
ジェームズ役は、【アイアンマン3】(2013)でエリック・サヴィン役を演じたジェームズ・バッジ・デールが務めています。
ジェームズ・バッジ・デールは、アメリカ合衆国ニューヨーク市出身で、父親は俳優でありダンサー、振付師のグローヴァー・デイル、母親は女優のアニタ・モリス。
10歳の頃、【蝿の王】(1990)でスクリーンデビューし、その後はアカデミー作品賞を受賞した【ディパーテッド】(2006)、【THE GREY 凍える太陽】(2011)、【ワールド・ウォーZ】(2013)に出演して、自身の存在感をアピールしました。
また、2012年実際に起こったアメリカ在外公館襲撃事件を描いた【13時間 ベンガジの秘密の兵士】(2016)では、主人公タイロン役を演じています。
本作では、陰気な雰囲気を醸し出した演技で、まるでエンプティ・マンが実在するかのような緊張感と恐怖感を見せつけました。
マリン・アイアランド
ジェームズの隣人で失踪になった少女の母親。
少女の母親役を演じているのは、テレビシリーズ【スニーキー・ピート】(2015-2019) のレギュラーキャストであるマリン・アイアランド。
1979年8月30日、アメリカ合衆国カリフォルニア州カマリロ出身。
2009年に<Reasons to be Pretty>でブロードウェイデビューを果たしたのち、数多くの舞台でキャリアを積み、舞台女優として知名度を上げました。
ドラマや映画にも出演し【アイ・アム・レジェンド】(2007)、【アイリッシュマン】(2019)にも出演し、第53回シッチェス映画祭では最高の女優特別賞を受賞しています。
神秘的な緊張感
【エンプティ・マン】では、所々でジャンプスケアなどビックリさせる場面が出ますが、<正体が分からない存在が自分を訪ねて来る>、<その存在が私を死に至らしめる>という心理的な圧迫感が、そのまま伝わって来ます。
ラストで宗教団体に溺れた人々が火をつけてクルクル回っているシーンでは、ジェームズが来た事に気付くと火が消えたり、大勢の人々がジェームズを追ったり、ジェームズの家に入って来たエンプティ・マンがジェームズに襲い掛かるなど、心理的緊張感で思わず息を止めてしまうほど、ハラハラドキドキさせる点もいくつか見られます。
似て異なる宗教
作中では、何かに惑わされたかのように<エンプティ・マン>を唱えた聖徒達が、死を迎える事になってしまいました。
作中で登場する宗教や異端とは、人を集めるために好奇心を刺激し、証拠のない予言をする事によってそれを信じた人々が後になって被害を受けても責任は取りません。
そのような点でも、作中の宗教団体は現実とは似非の宗教でした。
エンプティ・マンの正体と後継者
・ジェームズがアマンダを発見して、彼女の母親に連絡した時、母親はジェームズを初対面のように接していた場面
・エンプティ・マンの橋渡しとなったポールの身元について、看護師が「彼について、情報は知らない」と言う場面
そのような場面から、エンプティ・マンは神のような存在だったのです。
世の中を操って、橋渡しにさせた人の個人情報を無くす能力を持った存在だという事でした。
映画の序盤で、エンプティ・マンの起源を見せてくれる場面を通じて、エンプティ・マンの目的は何だったのかを考えさせられます。
- 何故その雪に覆われた山の穴の中に、骨だけが残ったままでいたのか。
- 多くの人々が山を訪れたはずなのに、何故よりによって、後継者にポールを選び、ポールよりも前の人から500年経っても後継者を決められなかったのか。
これらが、はっきりと解釈されていない点で1つ明らかなのは、エンプティ・マンは永遠に未知の存在であり、誰も手に届かない存在だということ。
何よりも衝撃的だったのは、結局は宗教団体に強い拒否感を持ったジェームズが後継者になったという事でした。
ある宗教を強く批判し、抵抗した人がその宗教に加入すると誰よりも信実になるという言葉がある通り、ジェームズの人間性を見抜いたエンプティ・マンは、わざわざ彼を後継者に選んだのです。
都市伝説の真相
都市怪談、都市伝説などと呼ばれるエンプティ・マンをホラー要素に作り上げたという点は本作最大の見どころです。
むしろ都市伝説を素材にした怪談映画で、果たして殺人を犯したのがエンプティ・マンなのか、それとも正気を失ったジェームズなのか、最後まで明らかにされていません。
また、エンプティ・マンは登場人物の罪悪感と恨みが極限に達した瞬間に現れますが、エンプティ・マンという存在自体、実在するのかさえ不明のままでした。
ただ、都市伝説はこのような不明瞭なストーリーと相性がとても良く、むしろホラーサスペンスとしてのクオリティが高くなっているのでホラー好きにはおすすめしたい作品です。
本作が見せる心理的恐怖
映画【エンプティ・マン】は、視覚的質感と共に、不気味な雰囲気を演出する音楽も映画のテーマにピッタリで、伏線やキャラクターの特徴も上手く引き出していました。
【エンプティ・マン】は、恐ろしい映像と極度の緊張感、そして驚異的なサスペンスを楽しめる作品なのでホラーファンの方にはぜひご覧頂きたいと思います。
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