映画【女王陛下のお気に入り】ネタバレ感想。
本作は、女王の寵愛をめぐった2人の女性の行く末と、女王本人の行く末が情緒的に描かれています。
中でも、想像をかきたてるラストシーンは必見!
この記事では、ラストシーンのうさぎの意味や、登場人物の感情を徹底的に解説しています。
【女王陛下のお気に入り】ネタバレあらすじ
18世紀初頭。
イギリスのアン女王陛下は心身ともに不安定な状態で、側近のサラに頼りきりな日々を送っていました。
アン女王にとってのサラは、側近であり親友。
アン女王の寝室には秘密の扉があり、そこからいつでも入れるようにとサラに扉の鍵を与えるほどの寵愛ぶりです。
またサラも、女王に対して忌憚のない意見を常に述べてきました。
強固な信頼関係を築いていた2人ですが、ある時、アビゲイルという女性が宮殿に現れ、そこから寵愛の奪い合いが始まっていきます。
女中になったアビゲイルは、女王が痛風で苦しんでいると知り、効力のある薬草を無断で女王の足に塗りました。
宮中の掟を破ったことで罰を受けるアビゲイルですが、自分の存在を女王に認識してもらえたことは収穫でした。
その後も、女王の心に入り込むため、さまざまな策を弄するアビゲイル。
ある時、サラの代理で女王の部屋を訪れたアビゲイルは、うさぎを可愛がることで女王に気に入られます。
女王は、飼っているウサギを自分の子供に見立てており、これまでに失った子供たちとうさぎを重ね合わせているのです。
「子を失うたびに、自分の心も失っていく」と言うアン女王。
そんな女王の悲しみを汲み取ったアビゲイルは、うさぎを可愛がり、女王にも優しい言葉をかけ、徐々に女王の心に入りこんでいきました。
しかしアビゲイルは、ただ純粋に女王に尽くしているわけではありません。
没落貴族の娘として過酷な人生を歩んできたアビゲイルは、女王の寵愛を利用して貴族に復帰することを目論んでいたのです。
目的のためにサラが邪魔になったアビゲイルは、ある日サラに毒を盛り……!?
ここから、結末に関する重要なネタバレを含んでいますので未視聴の方はご注意ください。
【女王陛下のお気に入り】ネタバレ解説・考察
ラストシーンのうさぎの意味は?
結論から言うと、ラストシーンでうさぎが映されたのは、最愛のサラを失ってしまったアン女王の虚無感を表していると思います。
アン女王は劇中で
・うさぎは、自分の失った子供たちの代わり
・子を失うたびに、心の一部が失われていく
と言っていました。
つまり女王にとってウサギとは、最愛の人を意味しているのではないでしょうか。
だとすると、ラストシーンでウサギが映った理由は、最愛のサラを失ってしまった虚無感を表すためだと推測できます。
また、ラストシーンの直前でアビゲイルがうさぎを踏みつけており、その場面をアン女王が目撃しました。
アン女王にとって、うさぎは子であり自分の心を保つクスリのようなもの。
ですから、アビゲイルがうさぎを踏みつけた行為は、アン女王の心を踏みつけたのと同じと言えましょう。
アン女王は、うさぎが踏みつけられたことでようやくハッキリと目が覚めたのだと思います。
アビゲイルの優しさや愛情が見せかけのものだったと。
女王は偽りだということを薄々感づいてはいたのでしょうが、気づかないフリをして偽りの優しさに身を置くことをあえて選んでいたように見えます。
人は誰しも、偽りであろうと優しくされたい時があるものです。
繊細すぎるアン女王ならばなおのこと、目の前の(アビゲイルの)優しさに縋りたかったに違いありません。
アビゲイルとは対照的に、サラは決して嘘をつかないけれど、その正直さは時にアン女王の心を傷つけていた気がします。
ラストシーンのもう1つの感情
ラストシーンのアン女王は虚無感に満ちていましたが、同時に印象的だったのは、女王のラスト前の言動です。
うさぎを踏みつけたアビゲイルを見た女王は、これまでの弱々しい態度が180度変わり、アビゲイルに厳しい態度を見せつけました。
アビゲイルの頭をつかんで「命じるまで口を開くな!」と言い、足を揉ませるアン女王。
このシーンは、アン女王の怒りを表しているのだと思います。
優しさを偽っていたアビゲイルに対する怒り。
そして何より、その偽りに騙されてサラを追い詰めた自分自身への怒りだったのではないでしょうか。
つまり、ラストシーンで描かれた感情は、虚無感と怒りだったのではないかと推測します。
数週間前。
アン女王は、薄々偽りだと気づきながらも、優しさを与えてくれるアビゲイルを選びました。
そんなある時、アン女王は「サラがお金を着服していた」とアビゲイルから報告を受けます。
アン女王は「彼女はそんなことしない」と言い、サラのことを1ミリも疑いません。
それなのに、最終的には「お金を着服したサラを国外追放する」と命じてしまったアン女王。
なぜそんな結論を出してしまったのか。
それは、自分の弱い心に負けてしまったからなのでしょう。
アン女王は、疎遠になったサラからの手紙をずっとずっと待っていましたが、手紙が届くことはありませんでした。
(本当は、サラはアン女王に手紙を送りましたが、アビゲイルが処分したのです)
きっと女王は、
だと解釈してしまったのだと思います。
つまりアン女王は、サラが無実だと分かっていながら国外追放するという命令を下したのです。
手紙がこないことに対する当てつけで。
※
アン女王は自分の手で愛するサラを追い込み、そして失った。
だからこそ、ラストシーンは自分への怒りと虚無感で満ちていたのだと思います。
ラストシーンを見て、初めてアン女王が主演である意味に気づきました。
そして、アビゲイルの名前はクレジットの2番目に表示されており、作中で重要な人物であることが分かります。
2番目の表示がサラではなくて、アビゲイルであることがポイント。
つまり、ラストシーンのアビゲイルの表情にも大きな意味があると思うのです。
ラストシーンのアビゲイルの感情を考察するために、彼女の心情を時系列で整理します。
時系列 | 感情 | アビゲイルの行動 |
---|---|---|
序盤
女中になる | 縋り | 何とか最低の生活からは脱したい |
中盤
侍女になる |
野心 | もう一度、貴族としての生活を取り戻したい
そのためにアン女王の寵愛は必須 邪魔者であるサラに毒を盛る |
後半①
サラの手紙 |
良心 決断 | アン女王に宛てたサラの手紙を読んで涙する
でも燃やす |
後半②
|
迷い 決断 | 「サラは着服してたのよね」というアン女王の問いに、言葉を濁す
でも肯定する |
ラスト |
傲慢 悟り | うさぎを踏みつける
アン女王にとって自分がどんな存在なのかを悟る |
後半①以降、アビゲイルの感情には揺れが見られます。
野心を抱いていた時は、道徳に反することもいとわずに、ただただ女王の寵愛を得ようとしていました。
しかし本来のアビゲイルは、人の感情を汲み取ることが得意な女性だと思うのです。
・女王がうさぎと子の話をした時、即座に女王の悲しみを感じ取った
・アン女王に宛てたサラの手紙を読んで涙した
そんなアビゲイルであれば、ラストシーンの女王の感情もきっと読み取れたはずです。
アン女王が心のシャッターを降ろして、アビゲイルに対して完全に壁を作ったこと。
そして結局は、女王にとって自分はその程度の存在であることを。
つまり、アビゲイルがラストシーンで見せた表情は、悟りだったと言えるでしょう。
アン女王の言動考察
アン女王陛下の寵愛をめぐっていたサラとアビゲイル。
アン女王がどちらをより愛していたかは、かなりハッキリ答えが見えています。
結論から言うと、アン女王が心から寵愛していたのは間違いなくサラです。
その理由として
・サラが男性と社交ダンスを踊ったとき、アン女王は怒りと悲しみを滲ませながらサラにビンタをした
・アビゲイルが結婚をする時には、アン女王は心から祝福していた
この違いから、アン女王が感情的に嫉妬してしまうほど愛していたのはサラだと分かります。
アビゲイルのことも気に入っていたとは思いますが、あくまでもお気に入り止まりだったのでしょう。
【女王陛下のお気に入り】を観た感想
本作に関して、“女同士の戦いが凄い”あるいは“歴史コメディ”という謳い文句をよく目にしますが、実際の内容は全く違う印象を受けました。
もちろん女同士の争いはありますし、笑いも描かれてはいますが、それは作品の本質ではないと感じます。
【女王陛下のお気に入り】では、心の弱いアン女王の生涯がただただ描かれていて、いい意味で裏切られました。
サラに依存し頼りっぱなしで、ひたすらに子どものようなアン女王。
サラの本物の愛を信じられず、逆にアビゲイルの甘いウソにすがってしまう弱さは、見ていて胸が苦しくなるほどでした。
けれども、そんな人間の弱さを、最後まで描ききったところが本作の魅力でもあると思います。
そして、途中まではなぜアン女王が主演なのか疑問でしたが、最後の最後でその理由が分かる――。
そんなラストシーンは鳥肌ものです。
※
アン女王は、飼っている17匹のうさぎを自分の失った子どもに見立てていました。
子を失うたびに、自分の心が失われていくと言うアン女王。
ラストは、最愛のサラを失ったことで、アン女王は完全に心を失ったように見えました。
そんなラストシーンだったからこそ、アン女王が主人公であることに深く納得したのです。
逆に途中までは、女王の寵愛を奪い合うサラとアビゲイルがメインの映画だと思い込んでいました。
ラストで視聴者の思い込みを覆すという映画の作りに脱帽です。
【女王陛下のお気に入り】は、中盤以降になるまでサラやアビゲイルの人物像がつかめません。
逆に言うと、話が進むにつれて少しずつ分かってくるので、音楽でいうところのクレッシェンドのような映画でした。だんだん強く。
そしてラストシーンで一気に感情が襲ってくる。そんな映画です。
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