【アンテベラム】人種問題を背景に描いた社会派ホラースリラー。

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映画【アンテベラム】は、【ゲット・アウト】(2017)、【アス】(2019)のプロデューサーであるショーン・マッキトリックが、再び手掛けたアメリカのホラー映画。南部連合軍駐屯地の綿農場で、強制労働させられている女性が仲間と共に脱出し、困難に遭遇しながらも生き抜いていこうとする物語。南北戦争前のアメリカを舞台に、人種差別を訴えるホラースリラー。人種差別や奴隷制度の恐怖と暴力に焦点を置き、ストーリーが進むにつれ新たな真実が浮き彫りになります。

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あらすじ

アメリカ合衆国ルイジアナ州にある南部連合軍駐屯地の綿花農場では、多くの黒人が強制労働させられていました。

ある日、イーライ(トンガイ・キリサ)と彼の妻は農場からの逃亡を図ったものの、13州の南部連合軍第9歩兵隊ジャスパー司令官(ジャック・ヒューストン)やその部下に見つかってしまいます。

イーライは妻だけを逃亡させようとしましたが、彼女は目の前で殺されてしまいました。

一方で、同じく逃亡を図っていたイーデン(ジャネール・モネイ)が、意識を失った状態で馬に乗せられ農場に戻って来ます。

その日の夜、ブレイク将軍(エリック・ラング)はイーデンに名前を尋ねましたが、イーデンが口を開かなかったため、将軍は彼女を鞭で叩き、背中に烙印(焼き印)を押しました。

この農場では、白人の許しを得ない限り奴隷同士は話す事が出来ませんが、イーデンは諦めずに隙を狙ってイーライと脱出計画を考えます。

そんな中、ジュリア(カーシー・クレモンズ)を始め数人の黒人を乗せた馬車が農場に到着しました。

イーデンは、自分の部屋でドアのロックに何かを塗り、変な足取りでドアとベッドを往復しています。

そこに突然ジュリアが訪ねて来て、妊婦であることを明かすとともに脱出を計画してほしいと頼んできました。

しかし、イーデンは聞き入れず何も聞かなかったことにして彼女を追い返します。

その日の夕食時、ジャスパー司令官の部下であるダニエル上等兵(ロバート・アラマヨ)は、今晩の相手にジュリアを選び、ジュリアは部屋で彼を待ちます。

ところが、ジュリアは彼の親切さに心が揺れ、発言の許可を受けずに「助けて」としがみついてしまったのです。

ルールを破ったジュリアにダニエル上等兵は態度を一変させ、彼女に暴行を加えます。

その時、ジュリアはお腹を蹴られて赤ちゃんを流産してしまいました。

一方で、ブレイク将軍の相手をしたイーデンは……。

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監督と出演者

ジェラルド・ブッシュ監督/クリストファー・レンツ監督

この映画は、短編映画作業を主に製作して来たジェラルド・ブッシュ監督と、クリストファー・レンツ監督が共同制作を手掛けた初の長編映画です。

ジェラルド・ブッシュ監督は、【Rapture and 17 Seventeen】(2017)で知られる監督兼脚本家です。

クリストファー・レンツ監督も監督兼脚本家であり、【Kill Jay-Z】(2017)、【Khalid & Normani: Love Lies】(2018)で知られています。

彼らは、15年近く一緒に製作しており、次回の映画作品には【Rapture】というタイトルが決まっており、HBO MaxのTVシリーズでSF作品に取り掛かっている最中です。

イーデン

登場人物:仲間を守りつつ命の懸けた逃亡を図ります。

キャスト:ジャネール・モネイ

出演作:【Rio 2】(2014)、【ドリーム】(2016)、【ムーンライト】(2016)、【マーウェン】(2018)、【アグリードール】(2019)、【ハリエット】(2019)

イーライ

登場人物:イーデンと共に逃亡を図る唯一の仲間。

キャスト:トンガイ・キリサ

出演作:【Tanyaradzwa】(2005)、【Mr.Bones2: Back from the Past】(2008)、【Skin】(2008)、TVシリーズ【スリーピー・ホロウ】(2013)、【The Jim Gaffigan Show】(2015-2016)、【iZombie】(2017-2019)、【Wolfenstein: The New Order】(2014)、【アメリカン・ホラー・ストーリー】(2012)

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南北戦争直前の時代

映画のタイトルにある”アンテベラム”の意味は、南北戦争直前の南部すなわち、”Ante-Bellum South”という言葉で、”アメリカ南北戦争直前の時代”を指しています。

南北戦争前の黒人問題を1860年を中心に、ノース・カロライナ州の9つの郡で実際にあった、奴隷及び解放奴隷の実態に焦点を合わせています。

白人の命令がない限り話す事さえも許されず、白人への性奴隷としての扱いも含めて、人間以下として扱われた黒人たちの暗鬱な現実が明かされました。

奴隷制は、元来から奴隷を人間としての価値を認めない制度であり、1863年1月1日の奴隷解放宣言後に奴隷の自由と黒人の生活状態の改善を追求。

1865年のアメリカ合衆国憲法修正第十三条の成立で奴隷制度が廃止されました。

実際には、1995年ミシシッピ州憲法での承認をもって制度は完全に終わった。

しかし、奴隷制に変わる制度として人種差別が発生し、黒人問題の中心は現在 農村より都市へ、南部より北部や西部に移行しつつある事から、根深い問題としての深刻さを思い知らされます。

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映画に描く人種差別

本作が製作されたのは、「白人警察官による黒人男性の殺害」で人種差別デモが発生したという敏感な時期でした。

また、公開されたばかりの【キャンディマン】(2021)でも人種差別について描かれたり、【ゲット・アウト】(2017)や【アス】(2019)で人種差別に触れていたりと、近年のハリウッド映画の傾向として、スリラーやホラーに人種問題を絡めるスタイルが多く見られるようになりました。

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隠された謎の意味

【アンテベラム】のポスターに出ているように、黒人女性の唇に止まっている蝶々が映画の象徴的なアイコンとして登場しています。

*下記については、あくまでも個人の捉え方によるものです。

:黒人女性、そして唇を塞いでいる赤い蝶々は、何を意味しているのか。
:驚く彼女の表情に唇を塞がられている時点で、見たものを誰にも話すなと言われているように見えます。
:血を流している蝶々は、何故怪我しているのか。
:蝶々はメタモルフォーゼ(変身)の象徴であり、サナギから姿を変えた蝶は自由なところに飛んでいけます。つまり、血まみれになりながらも、農場から逃げ出す黒人女性が蝶々自身なのかも知れません。
:【アンテベラム】の原題”Antebellum”の”E”が、何故反対方向に向いているのか。
:この映画では、過去と現在を行き来するような時間構成が見られました。過去と現在は同じ一面でありながら表と裏が違うのです。即ち、鏡のような状態を指しており、イーデンの名前の頭文字である”E”だけが反対方向になっているのではないかと思われます。
:“If it chooses you nothing can save you.”(それが君を選んだら、何も君を救えない)という台詞は、どんな意味を指しているのか。
:“それ”とは過去の事を指しており、過去が彼女を選べば、彼女は永遠に過去に留まる事になり、彼女の家族は彼女を取り戻す事が出来ない。そう解釈として捉える事が出来ます。
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“胡蝶の夢”

ここでは、“胡蝶の夢”という四字熟語を例として挙げてみます。

“胡蝶の夢”とは、中国の戦国時代の宋の蒙生まれの思想家の荘子(荘周)による、現実と夢の区別がつかない状況であり、夢の中の自分が現実か現実の方が夢なのかといった説話から由来されています。

夢と現実(胡蝶と荘子)の区別が絶対的ではないとされると共に、囚われのない無為自然の境地が暗示されています。

このことからも、夢の中で胡蝶がヒラヒラと飛んでいた所で主人公が目を覚めた場面からは、自分が蝶になった夢を見ていたのか、それとも今の自分を蝶が見ている夢なのか、という解析も考えられるでしょう。

象徴的アイコンである蝶々を使ったこの映画は、“胡蝶の夢”を伏線として映画の全てを物語っています。

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映画が伝えるメッセージ性

ホラーとスリラージャンルに社会性の深いメッセージを盛り込んでいる作品でした。

南部連合軍駐屯地の農場で綿花を獲る奴隷たちの姿や、彼らを虐待する白人の対比した姿を通じて、本作は何を伝えたいのかというテーマを意識した表現が巧妙でした。

私たち人間は、昔から差別と偏見の時代を生きています。

そして、この作品は「自分達が知らない何処かで過酷な差別が存在している」という現実を見せてくれました。

「過去は決して死なない」

たった一言のセリフは、きっと人種差別主義者だけの世界は今も存在しているというメッセージを送っているように思えてなりません。

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