【群がり】イナゴの群れで形象化した極限状況の心理的ホラー。

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映画【群がり】は、2020年に製作されたフランスのホラースリラー。2021年8月6日、中国、スペイン、フランスで劇場公開、それ以外の国ではNetflixで公開されました。本作は、食用イナゴの飼育を開始したシングルマザーの物語を描いています。2020年カンヌ国際映画祭の国際批評家週間に選ばれ、2020年シッチェス映画祭のオフィシャルファンタスティック部門で、主演女優賞とスペシャル陪審員賞を受賞、2021年ジェラルメ国際ファンタスティック映画祭では、観客賞と批評家賞を受賞しました。

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あらすじネタバレ

イナゴの養殖

夫の死後、シングルマザーのバージニア(スリアン・ブラヒム)は、娘ローラ(マリー・ナルボンヌ)と息子ガストン(ラファエル・ロマンド)と静かな田舎で暮らしています。

イナゴは豊富なたんぱく質の補充源として未来の食糧になると確信していたバージニアは、イナゴ養殖場を運営し粉末用の食用イナゴ販売で生計を立てていました。

しかし、イナゴの繁殖が上手くいかずに物量が不足。

さらに、食用イナゴを相応の価格で買おうとする人がいないため事業が上手くいってるとは言えず、唯一の友達であるカリム(ソフィアン・カムズ)の援助で辛うじて生計を立てていたのです。

一方で、バージニアは家族が仲良くあることを望んでいましたが、思春期であるローラは同年代のクラスメイトから、母親が食用イナゴを売っているという理由でからかわれバージニアに反抗していました。

ある日、アヒル農場主(ステファン・カスタン)に食用イナゴを予想外の低価格で購入されてしまいます。

怒ったバージニアはイナゴの養殖場で大暴れし、その弾みで転倒して気を失ってしまいました。

翌朝、目覚めたバージニアは驚きの光景を目にします。

なんと、これまで繁殖の気配がなかったイナゴが、バージニアが怪我して流れ出た血を飲み、卵を産んでいたのです。

血液がイナゴの繁殖能力を高めていることに気づいたバージニアは、輸血用の血液を30リットル購入しました。

そんななか、バージニアが養殖を続けていることに我慢の限界に達したローラは、バージニアが留守の時に養殖場のハウスを切り裂いてします。

イナゴは群れとなって逃げだしてしまいました。

一方で、バージニアはガストンが可愛がっているペットのヤギ・ユゲットの行方を探していると、離れた場所でイナゴの群れに喰われているユゲットの亡骸を見つけました。

バージニアは仕方なくユゲットの亡骸をイナゴの養殖場に運び入れ、ガストンには「見つからなかった」と嘘をつきます。

人類の危機

イナゴの大量繁殖に成功したものの血液を購入出来なくなったバージニアは、自分の血をイナゴに与え始めます。

その一方で、カリムとの関係を進展させたいと考えていましたが、イナゴに自分の血液を与えていることや、それが原因で体中に傷があるのを知られるのを恐れ踏み出せずにいました。

そんななか、イナゴに与える血液が足りなくなります。

するとバージニアは隣に住む老人デュビビエ(クリスチャン・ブレット)の愛犬や、近隣の農場で飼われている家畜を殺して、血を集めてはイナゴ達に与え続けるようになったのです。

多くの血を与えられたイナゴは、巨大な繁殖力と速いスピードで育つようになり、彼女の養殖場は2つから3つへ、3つから4つへと増えて行きました。

しかし、バージニアがイナゴの養殖に執着行くと同時に、血の味を知ったイナゴの群れにより人類は危機に瀕していくのです。

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出演者

バージニア・ヘブラード

登場人物:イナゴ養殖場を経営しているシングルマザー。

イナゴの繁殖に執着し、次第に人間性を越えた狂気に駆られていきます。

[ネタバレ]ローラとガストンを心から思っていますが、イナゴに対する母性本能が覚め子供達よりもイナゴ優先になったものの、イナゴの群れからローラを守るため自分を犠牲にしようとします。

キャストスリアン・ブラヒム

出演作:【Zone Blanche】(2017-2019)、【スペシャルズ!~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~】(2019)、【Que d’amour!】(2013)、【L’avare】(2009)など。

カリム

登場人物:ワイン農場主。

バージニアの力になってくれる友人で、ローラやガストンにとっては父親代わりの存在です。

ローラに助けを求められてイナゴ養殖場に入った際、デュビビエの死体を見つけて養殖場を燃やします。

[ネタバレ]しかし、ローラと家に逃げ込んだ際に、窓から入って来たイナゴの群れに喰われてしまいました。

キャストソフィアン・カムズ

出演作:【Le Convoi】(2015)、【Chouf】(2015)、【Le Monde est à toi】(2018)、【アプローズ、アプローズ!!】(2020)など。

ローラ・ヘブラード

登場人物:バージニアの15歳の娘。

母の仕事が原因で同級生からいじめに遭い、バージニアに反抗するように……。

イナゴに血を与えるバージニアの姿を目撃し、カリムに助けを求めました。

イナゴの群れから逃げて隠れるものの攻撃されてしまいます。

キャストマリー・ナルボンヌ

出演作:【Amours à mort】(2019)、【Play】(2019)、【Le meilleur reste à venir】(2019)、【Mandibules】(2020)など。

ガストン・ヘブラード

登場人物:バージニアの7歳の息子で、自分の部屋でイナゴを飼っています。

ペットであるヤギのユゲットをとても可愛がっており、行方不明になった時には酷く落ち込みながらも、ユゲットの帰途を待ち続けていました。

[ネタバレ]サッカーのキャンプで遠くへ行った為、イナゴの群れが町を襲った事は知りません。

キャストラファエル・ロマンド

出演作:【群がり】。

デュビビエ

登場人物:バージニアの隣人で、愛犬ジャッキーを可愛がっている老人。

バージニアが多くの養殖場を建てるごとに、疑い深く覗いています。

[ネタバレ]行方不明になったジャッキーを捜しにバージニアの養殖場まで行った際、イナゴの群れに喰われてしまいました。

キャストクリスチャン・ブレット

出演作:【Les samedis de l’histoire】(1978)、【Nestor Burma,détective de choc】(1982)、【恋の掟】(1989)、【Renseignements généraux】(1991-1993)など。

アヒル農場の飼育士

登場人物:アヒル農場主でありカリムの友人。

カリムに頼まれて仕方なく食用イナゴを購入し、アヒルに与えています。

キャストステファン・カスタン

出演作:【Mercenaire】(2016)など。

監督作:【Jeunesses françaises】(2011)、【Service compris】(2015)、【Finale】(2020)など。

リュック

登場人物:ローラの友達で唯一の味方であり、常に一緒にいます。

キャストレナン・プレボット

出演作:【Un couteau dans le coeur】(2018)、【Seuls】(2017)、【Pris de court】(2017)、【Seuls les pirates】(2018)など。

ケヴィン

登場人物:ローラをからかっているグループのリーダー。

キャストビクター・ボネル

出演作:【L’îlien】(2015)、【スクールズ・アウト】(2018)、【Trop d’amour】(2020)、【L’école de la vie】(2021)など。

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イナゴの群れの恐怖と極限状況の心理

【群がり】の原題”The Swarm”の意味は、”群れをなす昆虫”を指します。

イナゴの群れは、実際にも人類の食糧難に莫大な影響力を及ぼす事で知られており、かつてはイナゴの群れが田畑を通り過ぎると穀物が残ってなかったこともあったようです。

イナゴは数も多く強力な食性に加え、急激に増える繁殖力とてつもない機動性で、数多くの国に経済的損失を与える恐怖の対象なのです。

この映画では、イナゴの恐ろしさを描いていますが、バージニアにとってイナゴの群れは自分の望みを叶えてくれる金づるであり、自分の子供と同じような存在でした。

バージニアは、イナゴが多ければ多いほど素晴らしい事だと考えており、イナゴが少ないことはそれだけ生活面に困難が生じてしまいます。

すなわち、映画は一般的な通念を逆にねじ曲げて、極端な状況に追い込まれたバージニアの心理に焦点を当てているのです。

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差別と排斥

経済的困難から更に追い込まれ、肉体的な苦痛を一人で耐え忍ぶバージニアの姿からは、凄絶な寂しさを感じられました。

また、イナゴ養殖場経営者の娘というだけで笑われるローラがバージニアに反抗する一方で、バージニアは家族を養なければならないというプレッシャーがありました。

そんな彼女に、助けの手を差し伸べた人は、アラブ系という理由で差別を受けているカリムたった一人だけです。

彼だけがバージニアを助けてくれていたにも関わらず、バージニアは自分の秘密を知られるのが怖くてカリムを押しのけてしまいました。

差別と排斥、そして疎外の中でイナゴの群れに関する通念を考えなくても、バージニアの歪みで切迫した孤独の心理そのものが胸にぐさりと突き刺さりました。

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フランス式心理ホラー

【群がり】は、ホラージャンルでありながら恐怖の対象は幽霊や殺人鬼ではなく、イナゴを対象にするという斬新さが魅力の作品です。

また、”災害”というテーマではなく、環境を克服しようとする女性の捻じ曲げられたと心理に対する恐怖と、それによる家族の破滅を描いています。

ホラー映画というより、社会問題を表現した映画のようでした。

血を蝕むイナゴよりも、家族や隣人、愛から孤立し非人間化していく一人の人間の悲惨な姿、バージニアという人間がより一層恐ろしく奇怪に感じられる作品でした。

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