宇宙人が地球にやってきて人間を征服するというストーリーはSFものの定番の1つです。ですが、人間を征服したのが宇宙人ではなく猿だったとしたら・・・別の意味でインパクトがあるのではないでしょうか。
そこで今回は、猿が人間を支配している社会を描いた「猿の惑星」を紹介します。特殊メイクと衝撃的なラストシーンで有名な作品ですが、今回はこの作品の時代背景とテーマの一つである「言葉」について解説します。
あらすじ
地球から出発した宇宙船が、6カ月の宇宙飛行を終えて、地球へと帰還しようとしていました。
他の3人の乗組員と同じように冬眠状態に入ったテイラーでしたが、何らかのトラブルが発生し、とある惑星の湖の上に不時着してしまいました。
4人の飛行士のうち、テイラーを含む3人の男性飛行士は何とか脱出したものの、女性飛行士であるスチュアートは、装置の故障による空気漏れですでに死亡していたのです。
沈む船から離れ、ゴムボートで陸地にたどり着いた3人は、砂漠からオアシスにたどり着くのですが、そこで何者かに衣服や物資を盗まれてしまいます。
盗まれたものを取り返そうと追いかける3人でしたが、そこでテイラーたちが見たものは、言葉を話さない原始人のような群れと、そんな人間を追いかける銃で武装したゴリラの軍人たちでした。
人間狩りをする猿の軍隊に捕らえられたテイラーでしたが、言葉を話すことのできるテイラーに興味を示したチンパンジーのコーネリアスとジーラは、甥っ子の力を借りてテイラーを逃そうとするのですが・・・
当時の時代背景から考える「猿の惑星」
「猿の惑星」の原作は、「戦場にかける橋」でも有名なフランスの作家ピエール・ブールです。ピエール・ブールは、一説によると第二次世界大戦中に日本軍の捕虜となり、捕虜収容所で暮らしていたそうです。
そのため、「猿の惑星」で人間が檻の中に入れられているシーンは、作者自身の当時の収容所での暮らしが反映されているともいわれています。
「猿の惑星」の脚本家は、テレビシリーズ「トワイライトゾーン」の脚本でも有名なロッド・サーリングですが、当時の米ソの冷戦時代の要素を映画の中に盛り込んだと語っており、それを最も象徴しているのがラストのシーンだといえるでしょう。
また、言葉を話す猿が言葉を話せない原始人のような人間を支配するという世界は、優れた者が劣っているとみなされる者を征服するという、当時の人種紛争の寓話として描かれているともいわれています。
「猿の惑星」で描かれる言葉について
猿が人間を支配する世界で、猿が人間を自分たちより劣っていると考える理由の1つに「言葉を話すことができない」ということがあります。
実際、主人公のテーラーも、人間狩りの際に首に重傷を負って言葉が話せなくなったことから、惑星に住む原始人のような人間と同じだと思われていました。
そのため、何とか自分がコミュニケーションができることを伝えようと、ジェスチャーで相手のいうことを理解していると伝えたり、地面に文字を書くことでシーラ博士に伝えようとします。(ザイアス博士に文字を消されてしまうというのも伏線の1つです。)
そんなテーラーでしたが、自分の考えを文字で書いたことや言葉を発するようになってから、次第に他の人間とは違うというように思われます。
そんなテイラーにシーラ博士が興味を覚えたのは、自分の学説が立証されるのではないかと考えたのに対して、オランウータンのザイアス博士は、真理だと考えられていた自分たちの「聖典」が覆されるのではと恐れて、テイラーを危険視します。
ある意味、猿の惑星の世界は、人間の世界のカリカチュアともいえるもので、支配者が最も恐れることは、本当のことを多くの人たちに知られてしまうことです。
そして、ザイアス博士がテイラーを危険視していたのは、ザイアス博士のみが「聖典」とは異なる本当のことを知っていたからです。
本当のことが知られるのは言葉によって伝えられることや、テイラーが猿と同じ言葉を話すことから、「聖典」と矛盾する内容が暴露されるのでは、ということをザイアス博士は恐れていたのです。
映画のラストでは、ザイアス博士が隠していた真実を求めてテイラーは禁断地帯へと向かいますが、そこで彼が見たものは、別れ際にザイアス博士が語った「人間の運命」だったのです・・・
なお、原作では猿が話す言葉は独自の言葉で、主人公がその言葉を習得して猿たちと意思疎通を行うというストーリーですが、映画で猿たちは初めからテイラーと意思疎通を行える英語を話しています。
なぜ映画の中で猿たちは他の言葉でなく英語なのかということも、この映画の衝撃的なラストの伏線になっています。