PR

【ストレイト・ストーリー】まるで人生のような旅を。

映画【ストレイト・ストーリー】ネタバレと魅力。たったひとりで製作・監督・脚本などを手掛け4年の歳月を費やした【イレイザーヘッド】(1977)、アカデミー賞にノミネートされたことでも一躍話題になった【エレファント・マン】(1980)、1990年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した【ワイルド・アット・ハート】(1990)など独特のセンスを持つ「カルトの帝王」デヴィット・リンチ監督。そんな彼が「ニューヨーク・タイムズ」に掲載された実話を基に製作した異色のロードムービーをぜひご覧あれ。

PR

映画【ストレイト・ストーリー】あらすじ

舞台はアメリカ・アイオワ州の小さな町、ローレンス。

軽度の知的障害を持つローズと共に暮らしている73歳のアルヴィンは、ある日絶縁状態だった兄・ライルが脳卒中で倒れたという知らせを受けます。

しかし兄はウィスコンシン州マウント・ザイオンに住んでおり、アイオワ州からその距離350マイル(約560km)。

アルヴィンはかつて転倒したのをきっかけに腰を痛めており、杖2本なければ歩行もままならない状態でした。

しかし、運転免許を持っていないものの「もう一度、兄と一緒に星空を眺めたい。」という気持ちから、兄の元へ向かうことを決意します。

そんな彼の乗り物は、乗り慣れた芝刈り機でした。

あまりにも無謀な旅に町の住民は止めに入りますが、アルヴィンの決意は揺らぎません。

1度目は芝刈り機が壊れ引き返す羽目になったものの、知人から購入した芝刈り機でいざ再スタート。

時速8kmで進む旅の途中、色々な人々と出会いつつ確実に兄の元に近づいていくアルヴィン。

はたして無事にたどり着くことはできるのでしょうか……。

PR

【ストレイト・ストーリー】の見どころ・ネタバレ

きっともう2度と会うことはない人に伝える言葉

車で行けば1日の距離を6週間かけ、果てしなく続く1本道を進む旅の中、アルヴィンは道中でいろいろな人々に出会います。

貧しい時代を生き子どもを失う経験をしたからこそ、妊娠していることを誰にも伝えず出てきてしまった家出少女にかける言葉はとても優しいものでした。

家族は心配しているだろうことを彼女に伝え、「家族というものは寄り集まった小枝の束のように、パキリと折れることはないものだ」と語った翌朝。

彼女の姿はなく、かわりに小枝の束が置いてありました。

自転車に乗った若者たちとの夜、年を取っていいことは?との質問に「実とからの区別がついてきて細かいことは気にならなくなる。」と言い、年を取って最悪なのは?との質問に「若いころを覚えていることだ。」と答えています。

この言葉はのちのシーンで同世代の老人と語られる、年を重ねても消えることはない記憶である、彼らの若い頃の戦争体験につながっています。

その後も、故障したエンジンを直してくれた双子の兄弟、牧師、酒場のマスターなどと交流を交わしつつ、ライルの元へ近づいていくアルヴィン。

思いがけず彼と交流を持つ機会があった人々は、時に勇気づけられ時に人生について考えさせ、時に痛みを分かち合います。

大切なものは近くにあると見失ってしまいがちですが、そのことを気づかせてくれるようなアルヴィンの言葉にぜひご注目。

時間をかけたからこそ許し合えることもある

結局のところ、何があってアルヴィンとライルが絶縁するレベルまで離れてしまったのか、本編中で詳しく語られることはありませんでした。

誰よりも近い存在である家族ですから、はたから見たら些細なことでも当人たちの中では些細ではないいざこざが若い頃にあって、そのまま疎遠になってしまったのかもしれません。

ただ、知らせを受けてライルの元までたどり着くまでにかかった6週間が物語っているように、アルヴィンが「座って星を眺めたい。昔のように。」と願ったように、ただ兄に会いたくてやってきた彼を、歩行器に頼って歩くライルはもちろん怒ることなく優しさをもって迎え入れます。

玄関先のイスに腰かけるも微妙な距離感・雰囲気なふたりを最終的に結んでくれるのは、美しい星空、アルヴィンをここまで連れてきてくれた相棒の芝刈り機、流れに流れ、穏やかさを生んだ時間なのではないか、と思います。

PR

【ストレイト・ストーリー】のまとめ

ヒューマンドラマやロードムービーに出てくる中年男性は頑固な性格の人が多い傾向がある気がしますが、観ているうちに親しみがじわじわと湧いてくるのが不思議です。

今作のアルヴィンは正直かつ包み隠さない性格であまり当てはまりませんが。

どこともなく漂うシュールな雰囲気や途中で現れる鹿のおばさんのことを思うと、リンチ監督らしさが所々垣間見える作品ではありますが、延々と続く道を芝刈り機で走るシーンを観るとまさしくロードムービーである、と感じられる作品だと思います。

アルヴィン曰く、苦しくつらいことはもちろん、健康で体力があって楽しく遊んでいた頃の記憶も忘れずにわたしたちは歳をとっていきます。

若い頃を覚えていなければ嘆くことはないのかもしれませんが、多くを経験・理解し、そしてそれを覚えているからこそ、そのひとの人となりが形作られていくのでしょうから、やはり辛くてもその記憶は持って生きていくべきなのだろうと考えさせられました。

ちなみに、新聞に掲載されてから一躍有名人になったアルヴィンは、有名TV番組からの出演依頼が舞い込んでもすべて断っていたそうです。

ロードムービー好きはもちろん、大切な人と喧嘩してしまってうやむやになっている、そんな方にもおすすめです。