『君の膵臓をたべたい』は小説家・住野よるのデビュー作。アニメーション映画の他、浜辺美波、北村匠海のW主演により実写映画化もされている人気小説です。この劇場アニメは小説が出版される前から企画され、原作に近い時系列での映像化作品となっています。そして主題歌など3曲を人気バンド「Sumica」が担当しさわやかな感動を添えています。
【君の膵臓をたべたい】あらすじ
山内桜良の通夜の式場で、泣き崩れる親友や涙を流す人たちがいました。
「僕」(高杉真宙)は通夜には行かず、「君の膵臓をたべたい」という最後のメールを桜良が読んだのか考えていました。
*
「僕」は病院で偶然、クラスメイトの山内桜良(Lynn)が膵臓の病気で余命わずかだと知ってしまいます。
「秘密にして」と笑う桜良は親友にさえそのことを知らせず、毎日明るく過ごしていました。
そしてなぜか秘密の共有者になってしまった「僕」に近づき、死ぬまでにやりたいことにつき合わせてあげるといいます。
桜良は大好きなホルモンを「僕」と食べに行きました。
シビレ(膵臓)を焼きながら「私の膵臓は君が食べてもいいよ」と桜良。
食べてもらうと魂がその人の中で生き続けるらしいよと笑います。
美人で人気者の桜良といろいろな店に出かけるうち、どこかで見つかったらしくふたりは噂になっていきました。
友だちもなくイケてない「僕」と桜良は不釣り合いだとまわりはさわぎます。
特に親友の恭子(藤井ゆきよ)は「僕」に敵意をむき出しにしました。
「言ったら泣いちゃうでしょ。そんなの楽しくない」と、桜良は恭子に話さない理由を説明し「僕」はただひとり、真実と日常を与えてくれる人だと言ったのです。
連休がやってきて、半ば強引に「僕」は福岡旅行へ連れて行かれます。
桜良の書く日記に名前を残してほしくない「僕」でしたが、彼女の希望を叶えてあげるしかないか、と観念して名前の漢字を教えました。
博多に着きラーメンやもつ鍋を満喫するふたり。
手違いで一つの部屋に泊まることになり、あえて普段通り冷静に過ごす「僕」。
お酒の勢いもあり、はしゃいでいた桜良ですが、本当は死ぬことをとても怖がっている様子。
帰り際、今度は冬に旅行しようという桜良に同意しつつ「楽しかったよ」と言うと桜良はとても驚いていました。
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「僕」は、中途半端に桜良に近づくなと恭子に責められます。
雨が降り出したその日の夕方、桜良は本を借りに来てと家に誘います。
突然抱きつきキスしようとしたかと思えば、からかうように笑い飛ばす桜良。
怒った「僕」は桜良をベッドに押し倒しますが、泣き出す様子を見てハッとして出ていきます。
外に出ると桜良の元彼・クラス委員の隆弘(内田雄馬)が声をかけてきました。
しつこく桜良とのことを聞いてくるので「前の彼氏みたいにしつこいのは嫌いだそうだ」と言うと隆弘が殴ってきます。
そこへ桜良が止めに入り、「大嫌い。関わらないで」と言うと隆弘は去っていきました。
「僕」が「本気で君を心配してくれる人と過ごすべきだ」と言うと桜良は、いろいろなことの積み重ねで今の自分たちがここにいる、偶然でも運命でもない、だからあと少しそばにいてほしいと頼み、さっきのことを謝るのでした。
*
ボーリング、カラオケ……ふたりは(死ぬまでに)やりたいことリストを次々とこなしていきます。
でも、夏になると桜良は入院してしまいました。
お見舞いに行くと意外と元気そうで、「僕」にクラスメイトと仲良くなるよう薦めてきます。
「僕」は、桜良にとって生きるとはなに?とたずねます。
桜良はしばらく考えたあと、誰かと心を通わせることだと答えました。
桜良によって自分が変わってきたことに気づいた「僕」が、ありがとうと礼を言うと桜良がハグしてきます。
そこに桜良が盲腸で入院したと聞いた恭子がやってきました。
桜良は大げさに恭子に抱きつき「僕」を逃がします。
入院が二週間延びたと聞き、病院へ駆けつける「僕」の心配をよそに、桜良は病院を抜け出して丘の上の展望台へ。
本気で桜良を心配する「僕」に対し、桜良はこんなに思われて幸せだと微笑みます。
すると突然花火が打ち上がり、美しい光景にふたりは見入るのでした。
*
母親やクラスメイトとの接し方に自分の変化を感じるようになっていた「僕」。
初めてふたりで行ったCAFÉ SPRINGで退院した桜良を待っていると、今家を出た!というメールが届きます。
やりとりするうち、「私を褒めなさい」と送ってきた桜良に「僕」は「君の爪の垢を煎じて飲みたい」と打ちかけて消し、「君の膵臓がたべたい」と返信します。
しかし桜良は現れず、返信メールも届きません。
そして帰宅後、「僕」は桜良が通り魔に刺されて死んだことをニュースで知ったのです。
10日ほど経ったある日、「僕」は借りたままの『星の王子さま』の本を持ってようやく桜良の家をたずねました。
和室に設置された遺影に手を合わせたあと、桜良の母(和久井映見)に病気のことを知っていたと告げ、彼女の日記である“共病文庫”を見せてほしいと頼みます。
母は「君、だったのね」と泣き、あなたが来たら渡してほしいと頼まれていたと言って日記を出してくれました。
臆病だから葬式には来ないかもしれないけど、きっとこの日記を取りにくると言っていたと聞かされ「僕」はそれを読み始めます。
自分の名前は消されていましたが、そこには桜良のありのままの本心がつづられていました。
退院の日の明るい言葉で終わっている日記に切なくなり、それをとじると「まだ先……」と母が促します。
白紙のページの先にはいろいろな人への手紙の下書きが書かれていて、その一番最後に「君に」という文章がありました。
病気を知られる前から気になっていたこと。
自分とは正反対の「君」に憧れ、「君」のように自分自身を見つめて魅力をつくり出したかったということ。
友だちも恋人も必要としないと言っていたのに、自分のことを大切だと言ってくれた。
それをずっと待っていたのかもしれない、と。
ふたりの関係は友だちや恋人といったありきたりのものではないから、ただ尊敬して「爪の垢を煎じて飲みたい」という言葉では言い表せない、と桜良。
桜良とのメールのやりとりを思い出した「僕」は、彼女の携帯電話を借りて確認すると……
あの退院の日のメールを桜良は読んでいました。
手紙の締めくくりは「君の膵臓をたべたい」でした。
「もう、泣いていいですか」
そうことわると「僕」は桜良の母の前で号泣しました。
桜良に出会うために選択して生きてきたと感じる「僕」。
桜良の母が名前をたずねると「春の樹木と書いて春樹、志賀春樹です」と答える「僕」。
桜にぴったりねと母は笑顔で見送ります。
*
ほどなくして春樹はCAFÉ SPRINGに恭子を呼び出しました。
聞く耳をもたない恭子に日記を見せますが、なぜ自分に教えてくれなかったのかと恭子は春樹を責めるばかり。
しかし、桜良のような人間になると決意した春樹は、いつか自分と友だちになってほしいと恭子に言いました。
一年後。
春樹と恭子はいっしょに桜良の墓にお参りしています。
墓を後にして桜良の家に向かおうとする春樹の頬を、季節外れの桜の花びらがかすめていきました。
キャスト情報
《「僕」志賀春樹/高杉真宙》
友だちをつくらず、小説を読むことが好きな「僕」。
他人に興味をもたず、他人から自分がどう思われているかを想像して自己完結する男子高校生。
「僕」を演じた高杉真宙は【虹色デイズ】や【十二人の死にたい子どもたち】などで知られる俳優で、本作で声優に初挑戦しました。
2021年4月、長年在籍した事務所から独立し株式会社POSTERSの立ち上げを発表。
「たくさんのワクワクをお届けできるように、そして応援してくださる皆様と共に成長できる会社になれるように、努力してまいります」と述べています。
《山内桜良/Lynn》
「僕」と同じクラスで明るく気さくな人気者。
膵臓の病気で余命わずかですが、クラスメイトにはそのことを隠していました。
たまたま知ってしまった「僕」と、残された日々を悔いのないよう楽しもうとします。
桜良を演じたLynnは多くの主演作をもつアーツビジョン所属の人気声優。
映画では【劇場版ハイスクール・フリート】(2020)やアニメ映画【ジョゼと虎と魚たち】(2020)に出演しています。
競馬をモチーフとしたコンテンツでも声優をつとめていますが、競馬が趣味である彼女は三連単の馬券を的中させて高配当を得たこともあるそうです。
感想
小説や実写映画で内容を知られている本作。
そんな本作に挑んだのは監督の牛嶋新一郎です。
舞台を母親の実家である富山県高岡市に設定し、ノスタルジックな風景が作品に見事にマッチしています。
桜並木や海辺など、色彩・光が美しく表現されるシーンが効果的に使われ、中でも特に印象的なのは花火のシーンです。
原作にはないアニメオリジナルのこのシーンは、花火の中に入りこんだような浮遊感のあるもので、桜良と「僕」ふたりの気持ちが通い合った瞬間の心の高まりと、そのあとに待つ別れの切なさが表現されています。
また『星の王子さま』も映画の重要なモチーフとなっています。
もちろん桜良の大好きな本として登場するのですが、彼女亡き後それが彼女の家を訪れるきっかけとなるのです。
そこで桜良の思いを知った春樹が思いをはせる空想の世界が『星の王子さま』の世界観なのです。
これらのシーンはアニメならでは演出で、この作品の大きな見どころとなっています。
まとめ
主人公の名前が最後まで明かされない……、それがこの小説の面白い仕掛けなのですが、本作ももちろんそれを踏襲しています。
桜良からの手紙のなかで明かされる名前を呼ばない理由、そして意地になって自分も呼ばなかったという告白。
物語はこのクライマックスに向けて紡がれていきます。
この「名前」についての仕掛けに至るカタルシスを、美しいアニメ映画ならではの演出で楽しんでください。
そして、思いっきり浄化の涙を流しましょう。
© 住野よる/双葉社 © 君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ