【借りぐらしのアリエッティ】キャッチコピーは『人間に見られてはいけない。』。原作はイギリスの作家メアリー・ノートンの児童向けファンタジー小説『床下の小人たち』。少年に見られてしまった小人の家族に安住の地はあるのでしょうか。
≡米林宏昌について≡
【借りぐらしのアリエッティ】は米林宏昌の監督デビュー作。米林は本作のあと【思い出のマーニー】の監督・脚本を担当し、スタジオジブリ退社後にスタジオポノックを設立。【メアリと魔女の花】を監督しています。
【借りぐらしのアリエッティ】あらすじネタバレ
小さな住人
ある夏の日、12歳の翔は病気療養のため、むかし母が住んでいた郊外の屋敷へとやってきます。
草の生い茂る庭で、翔はクルッと草の茎をつたって下りていく小人の姿を見た気がしました。
この家の飼い猫ニーヤに追いかけられながら、床下の家へと帰っていったのは14歳の小人の少女、アリエッティです。
アリエッティは、父ポッドに初めての“借り”に連れて行ってもらうことを楽しみにしていました。
母ホミリーは心配しますが、ポッドはアリエッティにひとりでも生きていける方法を教えるべきだと考えていたのです。
その夜、ポッドとアリエッティは床下から屋敷の一階へと上がっていきます。
アリエッティにとって、初めて見る巨大な台所でした。
ポッドはスルスルと床面へ下り反対側まで走ると、今度は両面テープを利用して上まで器用に登っていきます。
ホミリーに頼まれた角砂糖を無事手に入れ、次はティッシュを取りに2階へ。
そこには、小人にピッタリの素敵な部屋が用意されていました。
ドールハウスです。
喜ぶアリエッティでしたが、ポッドは人間に気づかれてしまうのでここにあるものはダメだといいます。
2人で協力してティッシュを引っ張り出そうとしていると……。
なんと、アリエッティはベッドに横たわっていた翔と目が合ってしまったのです。
あきらめて撤退しようとしたとき、アリエッティは先ほど手に入れた角砂糖を床に落としてしまいます。
翔は「昼間君を見かけたよ」とやさしく話しかけてきますが、アリエッティは自分の犯した失敗にひどく落ち込んでしまいます。
「お母さんには黙っているんだよ」とポッドは言い、人間の出方を見極めてから考えようとなぐさめるのでした。
翌日。
翔は、通風口の所に角砂糖を置いていきました。
ホミリーは「罠だ」とうろたえ、喉から手が出るほどほしい角砂糖を置かれたことに腹を立てます。
ポッドは「決して手を出さないように」と静かに言いました。
次の日。
アリエッティは父のいいつけを破り、角砂糖を返しに翔の部屋を訪れました。
窓の外の小さな人影に気づいた翔は自分の名を告げ、アリエッティにも名前を聞きます。
アリエッティは姿を見られないようツタの葉に隠れていましたが、突如飛来したカラスに襲われてしまいました。
翔に助けられ部屋の中に入ったアリエッティは、騒ぎを聞いてやってきたお手伝いさんのハルから隠れ、壁の中へと逃げていきます。
そして、途中まで迎えに来ていたポッドに、「2度と関わり合うな」と注意されてしまったのです。
自分たちの存在を知られたことでポッドは引っ越しを決意し、その旨をホミリーに告げました。
夕食時、大叔母の貞子は翔の心臓病を気づかい、翔の母親が息子を置いたまま仕事で海外に行っていることに不満を漏らします。
翔は、話題を変えるためドールハウスについて質問しました。
すると貞子は、「父が小人のために作らせたものだけど小人は現れなかった」と、残念そうに言ったのです。
そのあと、貞子はドールハウスの中のお気に入りの部屋とキッチンを見せてくれました。
ドールハウス
強い雨の降った夜、足をケガしたポッドがスピラーという男に助けられ一緒に帰ってきました。
アリエッティは、自分たち以外にも小人がいるとわかり嬉しそうです。
野生的なスピラーは弓矢を用い、食料としてコオロギの足を持ち歩いています。
再会を約束し、スピラーはムササビのように風を利用して飛び去っていきました。
次の日の昼間。
家に誰もいない時間を見計らって、翔はドールハウスのキッチンを小人たちの家に設置しました。
アリエッティたちが喜ぶと思ったからです。
応接室の物入れの床に、床下に通じる部分があり翔はそこから天井をずらして入れたのですが、小人たちにとっては大地震以上に恐れた出来事でした。
ハルが帰ってきたので翔は急いで部屋に戻りますが、途中で落としたドールハウスのキッチン道具をハルは見逃さなかったのです。
一方、アリエッティたちはあわてて引っ越しの荷造りを始めていました。
ポッドが道順の確認に出かけたあと、アリエッティは庭で休んでいた翔に会いにいきます。
出ていくことを告げるアリエッティに翔は、「君たちは滅びゆく種族なんだ」と言うと「私たちはそう簡単に滅びたりしないわ」と、アリエッティに反論され翔は謝りました。
「死ぬのはぼくのほうだ」
来週に心臓の手術を控えている翔。
きっと成功しない、と暗い顔の翔にアリエッティは同情しました。
そのとき、ホミリーの声が聞こえます。
屋敷の中でハルが小人たちの家を見つけ、ホミリーをつかまえてしまったのです。
ハルは楽しそうにほくそ笑むとホミリーをガラスの瓶に入れ、台所の納戸の棚にしまってしまいました。
翔が自室に入ったのを確認するとハルは外から鍵をかけ、ネズミ駆除業者に電話して小人の捕獲を依頼します。
家に戻ったアリエッティはホミリーが連れ去られたと知り、2階の翔の部屋へ向かい助けを求めました。
部屋からの脱出に成功した翔は、ハルの目を盗んで床下のドールハウスを片付け、裏口から台所に入ってアリエッティとともにホミリーをさがし始めます。
そこにやってきやハルは、鍵をかけた部屋から翔が出てきていることに驚きつつも、言われるままにおやつの準備をしました。
救出作戦
ハルが納戸を気にしていることに気づいた翔は、アリエッティにそこへ行くよう指示します。
そこでアリエッティはホミリーを見つけて助け出し、翔に見守られながらその場を離れたのです。
ハルが業者の相手をしている間に、翔はドールハウスのキッチンを自分の部屋に戻しアリエッティの家の痕跡を消しました。
帰宅した貞子に状況を説明しながら現場を見せるハルでしたが、そこにはすでに何もなく、ドールハウスも元通り。
つかまえたホミリーも逃げたあとでした。
貞子はドールハウスのキッチンでハーブの香りを感じ、小人がいたことを理解しほほえむのでした。
ハルは業者を帰すよう言われ、ひとり悔しがります。
その夜。
アリエッティの家族は大きな荷物をもって庭を進んでいきます。
東屋まできたところでアリエッティの前に猫のニーヤが姿を現し、何かを理解した顔で戻っていきました。
寝付けない翔が庭に出るとニーヤがやってきて、ついてこいと言わんばかりに振り向きながら小走りに走っていきます。
翔は痛む心臓をおさえながらニーヤの後を追い、アリエッティの名を呼びます。
アリエッティたちは小川でスピラーと合流し、今まさに出発しようとしていました。
あきらめかけた翔の耳に、「翔」と呼びかけるアリエッティの声が聞こえます。
翔はアリエッティに角砂糖を贈り、「君のおかげで生きる勇気がわいてきた」と伝えます。
アリエッティは髪を留めていたクリップを翔に渡すとその指を両手でつかみ、「守ってくれてうれしかった」と涙を流しました。
またたく間に去っていったアリエッティを見送りながら、翔は「忘れないよ、ずっと」とつぶやきます。
登る朝日とともに、アリエッティたちを乗せたヤカンの舟は小川を下っていったのです。
【借りぐらしのアリエッティ】ここがみどころ
人間味あふれるキャラクター
本作最大の魅力は個性的なキャラクターたち。
特に強烈なのは、樹木希林演じるお手伝いさんのハルです。
何十年もこの屋敷に住み込んでいるハルは、子どもの頃に小人を見たことがあるという好奇心旺盛なおばあさん。
その表情は感情の動きに合わせてクルクル変わり、イジワルで疑り深いイヤなキャラクターですが、なぜか憎めないのです。
そのコミカルな動きと独特の声。
まるで希林さんが映画の中に入り込んだような錯覚をおぼえてしまいます。
もうひとり、アリエッティの母。
大竹しのぶ演じるホミリーも、心配性でオーバーリアクションの愛すべきキャラクターです。
夫ポッドを心配しつつも信頼し、快適なマイホームを守ることを第一に考え、時には乙女のように素敵な食器に目を輝かせたりします。
オロオロと動き回ったり、ビックリして気絶してしまったり、無口で冷静なポッドとは対照的な存在です。
娘を“借り”に送り出さなければいけない不安、小人は自分たち家族だけかもしれないという絶望感と仲間が見つかったときの喜びなど、小人たちの状況を誰よりもストレートに表現してくれています。
引っ越しのとき、疲れてもう歩けないといったセリフを次々と繰り出し、足手まといになっているところは思わずクスっとさせられます。
想像力をかき立てる小人たちの世界
アリエッティたちの家は屋敷の床下にあります。
本来は暗くジメジメした場所ですが、この映画ではあえて明るく描いているそうです。
もちろんダンゴムシや色々な虫も出てくるのですが、家の中は外光を取り入れるよう工夫されていたり、カラフルな装飾で素敵な空間が演出されています。
よく見る草花が豪華な生け花として飾られていたり、人間世界の小物が意外な使われ方をしているのを見つけるのも楽しさのひとつ。
また小人の視点で見た人間の家の中も、こんな風に見えるのかと感心する演出になっています。
高い崖を思わせるような戸棚からの景色、低く唸るような冷蔵庫の音。
意外な場所から壁裏に入り込みお手製のエレベーターで移動するなど、まるで自分が小人になったようなリアルな情景が展開されます。
ケルト音楽
このファンタジーを盛り上げているのがセシル・コルベルによるケルト音楽です。
ケルト音楽とは、西ヨーロッパのケルト人の民族音楽から発展した音楽で、地域的にはアイルランドやスコットランド、フランスのブルターニュ地方などが該当します。
本作で音楽を担当したセシル・コルベルはブルターニュの出身で、ハーブ奏者としても活躍しています。
ケルト音楽では歌の伴奏としてハープを演奏し、その牧歌的な雰囲気は小人たちの住むファンタジーの世界に見事にマッチしています。
ちなみにセシルは、今回の主題歌で日本語の歌詞にも挑戦しています。
【借りぐらしのアリエッティ】まとめ
スタジオジブリの宮崎駿が、原作【床下の小人たち】を映画化しようと思ったのは、この制作時期からさかのぼること40年前。
滅びゆく小人という種族が、ファンタジーでありながら苛酷なサバイバルによって必死に生活している姿を描くことによって、何を伝えようとしたのでしょうか。
物質的に豊かになった人間の中で、翔は両親が離婚し母は海外で仕事、心臓病の手術を控え孤独な日々を送っています。
一方、アリエッティたちは危険を冒して人間から物資を“拝借”するも、家族はしっかりとつながり心豊かに暮らしています。
どちらが幸せなのか。
そして、私たち人間がこれからどう生きていくべきか。
【借りぐらしのアリエッティ】は、そんなことを考えさせてくれる映画です。
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