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【ダーク・アンド・ウィケッド】ネタバレと考察解説。原初的恐怖心を刺激し極限の心理的恐怖に追い込むホラー。

Copyright © 2020, Panther Branch, LLC All Rights Reserved

Writer:ocean yacht
Introduction

映画【ダーク・アンド・ウィケッド】は、長年連絡を取る事のなかった兄妹が悪夢のような恐怖に包まれる7日間を描いたオカルトホラー。完成度が高く国際ファンタスティック映画祭では【ヘレディタリー/継承】(2018)より恐ろしく独創的な映画と評価されました。2020年第53回シッチェス国際映画祭主演女優賞、撮影賞受賞、スプラットフィルムフェストで観客賞まで受賞し、作品性と興行性を兼ね備えた作品。タイトルが意味する”闇と邪悪さ”が与える恐怖感は、これまでの他のホラー映画とは一味違うリアルで原初的な恐怖感を与えてくれます。

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Production

公開:2021年 アメリカ

原題:The Dark and the Wicked

配給:クロックワークス

監督:ブライアン・ベルティーノ

キャスト:マリン・アイルランド、マイケル・アボット・ジュニア、ジュリー・オリバー・タッチストーン、マイケル・ザグスト

公式SNSInstagram Twitter

 

公式サイト

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あらすじ

ある日の夜、人里離れた静かな農場にて、羊の小屋に入った母親バージニア(ジュリー・オリバー・タッチストーン)は、何かから羊を守るように、ビンとロープで繋いだ装置らしきものをぶら下げています。

そして、家に入り、台所で野菜を切っているバージニアは、自分を向いているように置かれている椅子に振り向き、首をかしげました。

月曜日。長い間連絡を取る事のなかった兄妹のマイケル(マイケル・アボット・ジュニア)とルイーズ(マリン・アイルランド)は、テキサスで農夫生活をしていた父親デヴィッド(マイケル・ザグスト)の病状が悪化し、ベッドから離れられない状態になったデイビッドの面倒を見る為に故郷の家に向かいます。

久しぶりに、バージニアとの再会に喜ぶマイケルとルイーズですが、思ったより冷たいバージニアの態度に失望します。それにも関わらず、バージニアはマイケルとルイーズに、「ここに来るべきではなかった」と言って、早く農場を離れるように言いました。

そして、真夜中に一人で残って台所で人参の切り込みをしていたバージニアは、急に何かに憑かれたように自分の指を細かく刻み始め、酷くめったきりになった指と血で濡らした痕跡だけを残したまま、家を悠々と立ち去ります。

火曜日。血まみれになった台所を目撃したマイケルとルイーズは、家から消えたバージニアを急いで捜し始めます。すると、羊の小屋で高い天井に首を吊ったまま、冷たく固まってしまったバージニアの死体がありました。

水曜日。マイケルとルイーズは、バージニアが亡くなった後、デイビッドの看病の為に家を出入りしていた看護婦(リン・アンドリュース)から、これまでバージニアがどれほど辛くて寂しかったかについて聞く事になります。

バージニアはいつもデヴィッドの傍に座って話し掛けていました。しかし、デヴィッドではなく誰かといるかのように話をしていたと聞いて、ルイーズは”自分が父親の傍で守ろう”と心に決めました。

その日の夜、シャワーを浴びているルイーズの前に、動けるはずのないデヴィッドが現れ、驚いたルイーズは咄嗟に座り込みます。しかし、デヴィッドはベッドで寝たきりになったままでした。

デヴィッドのベッドの下から、バージニアの日記帳を見つけたマイケル。

そこには、”彼が闇の中にいることを知っている。彼がデヴィッドを殺している。彼はこれ以上息をする事が出来ない。彼を止める方法がない。悪魔。悪魔。悪魔。悪魔がデヴィッドの魂を欲しがっている。”

木曜日。マイケルとルイーズは、バージニアの遺体保管庫へ行きました。そこで解剖士から、バージニアのポケットから多くの十字架が入っていたと渡されます。しかし、バージニアは教会の信者でもなく、通った事もありません。

この日は、食材を買い込む為に一旦自分の家に帰って寝る事にしたマイケル。ルイーズは、洗面所で蛇口から血が流れて来るのを目撃して、拭き取りました。

一方で、眠りについたマイケルの部屋には、突然灯りが点いたり、窓の外に立っているバージニアの姿が見えました。

金曜日。朝起きたルイーズは、洗面所に向かうと鏡に映ったのは、自分の顔にあちこち血が塗られていました。驚いたルイーズは、顔を洗うと同時に、電話が鳴りました。電話に出るが、無言のままでした。

バージニアの死を聞いた神父(サンダー・バークレー)は、マイケルとルイーズを訪ねて来て、マイケルにバージニアが持っていた十字架と同じ十字架を渡します。

神父にバージニアの日記を見せたマイケルとルイーズですが、彼らは宗教に対する信頼がない為、悪魔の存在も信じません。

神父に助けをお願いしたくて相談したにも関わらず、神父はバージニアに「真実を伝えた」と言います。

そして、「オオカミは自分を何と言おうが、関係ない。森で、君が1人でいる事だけを知っているからさ。」と不気味な事を言った神父に気分を悪くしたマイケルは、帰るよう言いました。

「本当に悪魔がここにいると思うのか。」と尋ねたマイケルに、神父はこう言いました。

「悪魔は私しかいないよ、もうここにいるよ。」

その日の夜以降、更なる恐怖が、マイケルとルイーズを襲い始めました….。

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監督と出演者

ブライアン・ベルティーノ監督

ブライアン・ベルティーノについて:ブライアン・ベルティーノ監督は、1977年10月17日アメリカ合衆国テキサス州クロウリー出身。

作家兼プロデューサーであり、テキサス大学オースティン校で映画を学んだ後ロサンゼルスに移り、ガファーとして働きながら脚本を書き続けました。

代表作:長編監督デビュー作【ストレンジャーズ/戦慄の訪問者】(2008)、【フェブラリィ 悪霊館/フェブラリィ消えた少女の行方】(2015)、【ストレンジャーズ 地獄からの訪問者】(2018)、【ザ・モンスター】(2016)。

ルイーズ・ストレーカー

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登場人物:デヴィッドとバージニアの娘でマイケルの妹。

デヴィッドの看病をする為、マイケルと共に久しぶりに故郷に戻りました。

しかし、自分の知っている母親とはかけ離れたバージニアの姿に戸惑い、両親を今まで放っていた罪悪感に苦しむようになります。

[ネタバレ]バージニアとマイケルを失い、自分がデヴィッドを守ろうとするが悪魔に殺されてしまいます。

キャストマリン・アイルランド

出演作:【スニーキー・ピート】(2015–2019)、【アイ・アム・レジェンド】(2007)、【アイリッシュマン】(2019)、【エンプティ・マン】(2020)【HOMELAND】(2011-)、【アンブレラ・アカデミー】(2019-)など。

”マリン・アイルランド”について:1979年8月30日アメリカ合衆国カリフォルニア州カマリロ出身。

ニューヨークで上演された”Nocturne”(2001)で、オフ・ブロードウェイデビューし、2014年に映画【GLASS CHIN】に出演しインディペンデント・スピリット賞助演女優賞にノミネートされました。

また【最後の追跡】(2016)、【アイリッシュマン】(2019)でもアカデミー賞作品賞にノミネートされる他、数多くのブロードウェイや他州での公演など舞台女優としても活躍しています。

マイケル・ストレーカー

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登場人物:デヴィッドとバージニアの息子で、ルイーズの兄であり妻子持ち。

デヴィッドの看病をするため故郷に戻ってきましたが、マリンと同じく両親に親孝行出来なかった罪悪感に苦しみます。

[ネタバレ]悪魔に”妻子が殺される”幻覚を見せられ、その場で自殺してしまいました。

キャストマイケル・アボット・ジュニア

出演作:【Shotgun Stories】(2017)、【Mud-マッド-】(2012)、【In the Radiant City】(2016)、【ディック・ロングはなぜ死んだのか??】(2019)など。

”マイケル・アボット・ジュニア”について:1978年7月8日生、アメリカ合衆国東テネシー州出身の俳優。

ノースカロライナ芸術演劇学校を卒業したのち、ニューヨークで数多くの舞台を経験しました。

トニー賞を受賞した俳優のひとりでもあり、数多くの映画では脇役ながらも印象に残る存在感を放っています。

2019年に【ディック・ロングはなぜ死んだのか?】の主演に抜擢され、マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオがタッグを組んだ映画【KILLERS OF THE FLOWER MOON】(2021)にも出演。

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両親や故郷など郷愁を誘う空間での恐怖

出典:Amazon

血の色のように真っ赤な空、そして空中に浮かぶ得体の知れない女性の黒い形が不吉で不気味な雰囲気を伝えます。

長い間意識のないまま寝たきりの父親と、何かに取り憑かれたように終始不安そうな母親、森から聞こえて来る正体不明の動物の鳴き叫びに満ちた夜明けの田舎の家、外からは不吉な気配。

そして、恐怖に震え上がる兄妹に向かい陰惨声で「外に出るように」と囁く神父。

映画【ダーク・アンド・ウィケッド】は、キリスト教モチーフ、ジャンプスケアー、オカルトなどアメリカホラー映画の核心を突き、闇と邪悪さに侵されたある家族の極限の恐怖を慈悲なく描いている作品なのです。

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ハウスホラーが見せる日常的な恐怖

映画【ダーク・アンド・ウィケッド】は、おぞましいゴア、身の毛もよだつ演出、そして夢も希望もない暗鬱なストーリーの三拍子が揃っており、何処で現れるか分からない悪魔と戦わなければならない主人公達の心理に焦点を当てています。

また、母親が羊の群れの中で自殺した場面やルイーズが父親の亡霊を見る場面など、破壊された日常を見せつつ、悪霊がスモッグのように広がっていく様を視覚的に表現していました。

“家”とは通常は安心できる空間ですが、本作では家の中を埋め尽くす緊張感と邪悪な違和感を兄妹の極限の恐怖を以って表しているのです。

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繊細にこだわった道具や音響効果

どれが本物でどれが悪魔が作り出した幻影なのかと混乱する場面や、羊の鳴き声と静かに回転する風車の音、外部の侵入を防ぐ為に設置された装置のぶつかる音、低いため息と共に聞こえて来る賛美歌などが、極限の恐怖感を導き出す表現として使われていました。

闇の中から聞こえて来る不気味な音はサスペンスホラーを誘発しており、夥しいサウンドと緊張感溢れるカメラワークで伝える極限恐怖、一瞬たりともスクリーンから逃れられない演出を創り上げた点は最大の見どころです。

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悪魔が母親を侵食した理由

主人公家族にとって不安の根源は病の父親であり、父親はいつ死ぬのか、いつまで父親の面倒を見なければならないかについて頭を抱えました。

そして実は、父親が病床に伏した瞬間から闇が家族を包み込み、邪悪な気運が染み込んでいたのです。

特に、長い間たったひとりで夫の看病や羊の群れの世話をしていた母親の内面がまさにそうでした。

悪魔は、看病で疲れた空虚さと、人生に対する悲観だけが残った母親の内面の寂しさ空虚を狙って浸透したのです。

無神論者の母親が悪霊の存在を感じ、十字架を持つようになりました。

日記に書かれた「悪魔が闇の中で夫を狙っている」と言う部分は、悪魔に命を奪われるということを証明しています。

母親が世話をした羊の群れ=母親自身
錆びた蝶々が軋む古い家=母親の疲れた内面

時々、羊を狙うオオカミの鳴き声が聞こえるのですが、これは悪魔が入って来る合図で悪魔=オオカミという含蓄的な意味が込められています。

また、神父の「オオカミは自分を何と言おうが関係ない。」という言葉は、”悪魔は自分自身に対する評価は気にしない”という意味ですが、”自分を蝕ぶ寂しい内面を狙う”という意味として捉える事が出来ます。

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曜日と悪魔

映画のプロローグで、月曜日から日曜日まで日が変わる毎に曜日の文字が浮かびました。

旧約聖書の創世記には、神が一週間 天地を創造し最後に人間を作ったとありますが、【ダーク・アンド・ウィケッド】では、その逆の過程が描かれています。

一週間は、”聖書において七日間天地が創造された事”を意味していますが、まるでこれをあざ笑うかのように、7日の最終日、悪魔は狙っていたデヴィッドの魂を奪いました。

“7”という数字は、”カトリックの七罪宗と七大悪魔”を思い浮かばせる。

悪魔は幻想を見せたり、それぞれの人間から何かを取り出して自殺に誘導する力を持っています。

つまり悪魔は、もともと狙いだったデヴィッドの魂を持っていく為に、彼を守る周りの人物を一人ずつ死に追い込んでいったのです。

聖母マリアのろうそくが全て燃え尽きた時にデヴィッドの魂が去り、これまで姿を現わした事のない悪魔が直接ルイーズを攻撃しました。

ろうそくは、”神さえ守る事が出来ない状況を表す装置”で、つまりは”邪悪な存在を防ぐことができない”ことを示しています。

タイトルの“Dark”=”暗い”という意味もありますが“邪悪”という意味も含まれており、“Wicked”=”邪悪な事”を意味します。

そう、ここに出て来る悪魔は“邪悪さそのもの”なのです。

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孤独感と家族の大切さ

【ダーク・アンド・ウィケッド】は、ホラー映画ながら”孤独感”も重要なテーマとして描いています。

寂しいという感情は心理的圧迫感となり恐怖に変わる。

これは誰にでもなりうることであると伝えており、恐怖感の転移は孤独から始まったという意図が込められています。

成長した子供達が去った後、これから自分たちの人生を過ごそうとした矢先。

唯一頼りだった夫が病気になり、看病も羊の世話もひとりでやらなくてはならなくなった妻からは寂しさが感じられました。

そして、母親から「すべてひとりでやっていた」と聞かされた兄妹の姿からは罪悪感が感じられました。

家族ならお互いが見守りあわなければならない、ということを映画は伝えているのかもしれません。

また、ルイーズの傍で死んでいく父親の姿からは、”一人残された魂より悪いものはない”という事を意味しており、孤独に死していく人々を反映しているのでしょう。

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無力さから派生する恐怖

本作では、オカルト映画でよく扱われている悪魔を封印する方法などは描かれていません。

むしろ、悪魔によって崩壊していく過程と邪悪な存在に対する恐怖、逃げる事も出来ない無気力の恐怖をシンプルに描き出しています。

ホラー映画が伝えようとする真の恐怖とは、何も出来ない無力さからの派生なのです。

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