【ジョーカー】(2019)にてアカデミー賞主演男優賞を受賞したことでも知られるホアキン・フェニックスがその次に出演を決めた作品としても話題を呼んでいる作品。
ラジオジャーナリストのジョニーとその甥・ジェシーとの数週間の日常がやさしく描かれる、最高に愛おしい日々。
原題:C’mon C’mon
監督:マイク・ミルズ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
「C’mon C’mon」オフィシャルサイト
【カモン カモン】あらすじ
ラジオジャーナリストのジョニーは、いろいろなエリアに住む子どもたちに将来についてや自分についてなどインタビューをしながら、ニューヨークを拠点にアメリカ国内を飛び回っていました。ある日、ロサンゼルスに住む妹・ヴィヴから彼女の夫であるポールの手伝いに行くため甥・ジェシーを預かってくれないかとのお願いが。
ヴィヴとジョニーは母親が亡くなってからギクシャクした関係をしていましたがジョニーは快諾、数日間面倒を見ることになりました。ジェシーは風変りだとヴィヴから説明を受けていたものの、子育てをしたことがないジョニーは初日から大爆音で響くクラシック音楽に起こされたり他にもストレートに疑問を投げかけられたりと、早くも厳しさを知ることになりますが、ジョニーの持つ録音機材に興味を示したり会話をしたりするうちに、距離が縮まっていきます。
そんな中、ヴィヴからまだ戻れないとの連絡が。ニューヨークでの仕事があるジョニーは悩みつつも行ってみたい、というジェシーの言葉に彼を連れて戻ることを決めますが……。
注目のスタジオ・A24が送る、「奇跡の日々」
【レディ・バード】(2018)、【ミッドサマー】(2020)など話題作を送り出しているA24の新作は、心温まる大人と子どもの話です。「自身の子どもをお風呂に入れているときに思いついた」という本作の監督は【人生はビギナーズ】(2010)、【20センチュリー・ウーマン】(2017)などで知られるマイク・ミルズ。
【20センチュリー・ウーマン】はA24が配給しているため、スタジオと監督は本作で2度目のタッグとなります。主演は冒頭で述べたようにホアキン・フェニックスと、注目の新星であるウディ・ノーマン(目指す俳優はティモシー・シャラメだそう)。
ホアキンは役作りのためにまず最初に始めたという子どもたちへのインタビューの際に「ジョーカーの人だ」と言われることもあったそうですが、そのイメージを一掃するような穏やかさで、ジェシーに対しても「ひとりの人間」として丁寧に接する伯父を見事に演じています。
また、ジェシーという役を完全に理解しつつ、アドリブを混ぜつつ演技するウディの優れた表現力こそ本作でのいちばんの注目ポイント。そんなウディとホアキンの掛け合いや一緒に行動するシーンが、なんてことのない日常を描いているけれども視聴者が本作に集中し、共感を得ることのできる最大の理由なのだと感じます。
モノクロ映画にした意味
【Mank/マンク】(2020)、【ベルファスト】(2022)など、近年モノクロ映像作品がちらほら増えてきているように感じますが、本作もモノクロ映画。それは本作を「ドキュメンタリー性を盛り込んだ寓話」と表現したかったからだそう。
モノクロの利点として挙げられるポイントは、ドキュメンタリー性・リアリティーが増すこと、色味が少ない分ストーリーに深く集中できることです。本作で描かれる都市はデトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオリンズの4都市。
太陽の光でいっぱいのロサンゼルスや鮮やかなニューオリンズのような都市をモノクロで撮影できる機会はめったにない、と興味を持ち撮影監督になったロビー・ライアン曰く、だからこそモノクロにしたことで街やその他風景に目移りせず、ジョニーとジェシーの行動はもちろん、気持ちや表情に注目したまま観ることができるだと思います。
また、全ての都市の色味が消えたことで統一感が現れ、ふたりの旅をひとつにつなぐ役割も果たしていると感じました。
監督の制作方針
【人生はビギナーズ】では自身の父との体験や関係を、【20センチュリー・ウーマン】では母との体験や関係を基に作られたストーリーということがよく知られているマイク・ミルズ監督の作品たち。そんな中本作はというと、監督自身が父親となり、子育てを通じて想定外の出来事にインスパイアされて作られた作品です。
ジャケットやパンツなどジョニーの衣装の大部分は監督の私物のようで、髪型にもインスピレーションを受けたと語るホアキン曰く、「監督の投影」まではいかないものの、影響があるのはまちがいないようです。
また、「軽いタッチで押しつけがましくないこと」をモットーに作成された本作は、一般人が行きかう中や新旧の友人の自宅をを借りて撮影するなど、現実世界に溶け込む工夫がなされています。
【カモン カモン】まとめ・感想
留守中だけの共同生活なのでずっとふたりの生活が続くわけではないところもポイントで、ラストシーンではジェシーは迎えに来たヴィヴと共にロサンゼルスに戻っていきます。見送りのシーンやジョニーの姿に共感する方は多いはず……。
またその後、いたずらのようにこっそり録音されたジェシーの声を聴くジョニー、ボイスレターを自宅で聴くヴィヴとジェシーのシーンに、数日間のひとときだったとしても、ふたりの絆は深まり、とても大切な日々であったことをしみじみと感じさせられます。
なんてことのない日常を綴っている本作ですが、ロードムービーを思わせる、穏やかな時間の流れるヒューマンドラマに仕上がっていると思います。
デジタルデバイスも所々もちろん出てくるのですが、ただ会話しているだけ、のんびり散歩しているだけのシーンが多いので、一旦デバイスをしまって自然に人と接したり出かけたくなる、そしていろいろな音に耳を傾けたくなる映画です。
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