【ファーザー】アンソニーはいつかの自分である。

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映画【ファーザー】コラム。第93回アカデミー賞にて主演男優賞と脚色賞を受賞した作品。同名であるアンソニーを演じるアンソニー・ホプキンスの素晴らしい演技にぜひご注目を。テーマである認知症について考えさせられます。

配給:ショウゲート

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【ファーザー】あらすじ

80歳のアンソニー(アンソニー・ホプキンス)の元を訪れる娘・アン(オリヴィア・コールマン)が歩いているシーンから物語は始まります。

フラットを訪ねる理由は、アンソニーが介護士をクビにしてしまったから。

腕時計を盗まれた!と彼は言いますが、年齢による認知症の症状からくるものだったようで、腕時計はバスルームのいつもの置き場所にあり盗まれてはいませんでした。

アンはそんな父のために介護士を探して雇ったのですが、アンソニーはひとりでやっていけると聞く耳を持ちません。

アンが心配して介護士を雇った理由はもうひとつ。

近々結婚を機にイギリスからフランスに引っ越すことになり、自分がすぐに父のもとに駆けつけられないからでした。

そのことをアンソニーに告げると、ジェームズと結婚していたのに?と聞き返してきますが、ジェームズとは5年前に離婚しており、彼にももちろん話していました。

食い違っている現実に首を傾げるアンソニーですが……。

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新しい視点で描かれた作品

本作に登場する人物たちの演技が素晴らしいことはもちろんですが、この作品が注目を浴びる理由はやはり今までの作品と視点が異なる点ではないかと思います。

認知症になったアンソニー視点で描かれていく本作は、結局何が本当なのかわからない構成になっています。

今日は何日?介護士ってこんな人だったか?自分のフラットだと思っていた場所は娘・アンの家だった?話も二転三転としていてどれが真実かわからない。

自分にとっては確かに実際にあったことで現実であることなのに、「いつまで我々をいらつかせるんだ」とアンのパートナーであるポールに言われ困惑するばかり。

認知症とはこういうことなのだ、と視聴者が身をもって知ることができ、自分の将来はもちろん、今後身近な人がそうなった場合の関わり方をとても考えさせられる作品でした。

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全人類観ておくべき作品!

先ほども述べたように認知症を考えさせられる本作ですが、認知症という感覚を知ることができるという点以外にも、他人に対するアンソニーの態度などについても客観的に見ることができる点は素晴らしいです。

彼はたしかに「頑固なおじいさん」であり、他人に対して不躾な部分もありますが、怒鳴り散らかしたり自分の勘違いを頑なに認めなかったりと、どうにも手が付けられないような人間ではないように思えます。

アンソニーは、他人の言動が二転三転して何が本当かわからない世界で、不安と隣り合わせに生活していますが、他人に当たることをしないという部分は取り入れて老いていけたらとしみじみ感じました。

「他人のふり見て我がふり直せ」といいますが、今回の場合は教訓として、アンソニーのように「何かがおかしい生活」と思ったら自分は認知症かもしれない、と気づけたらと思います。

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話し合いのたいせつさ

先日【スーパーノヴァ】(2021)についてコラムを書かせていただきましたが、主人公のひとりであるタスカーは認知症を患っているもののまだ生活ができる状況でした。

そんな彼が選んだ未来は……。

少しテーマがずれますが、トム・ハーディ主演【カポネ】(2021)もまた思考力・判断力を失ったアルを支える家族が多く描かれていました。

本作では認知症が進行しているアンソニーを、アンは父や自分の人生のことを考えた結果、苦渋の決断でアンソニーを施設に入れてフランスに引っ越していきます。

タイトルを挙げさせていただいた3作品、特に本作と【スーパーノヴァ】の選択や考え方について思うことは人によって様々だと思います。

しかし、いつか自分がそういった立ち位置に来たとき、自分はどうされたいのか、どういった行動をするといいのか、どうしたら一番自分や家族や身近な人にとってベストなのかを今からでも話し合っておくとよいと感じました。

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【ファーザー】まとめ・感想

主演男優賞を受賞するのはチャドウィック・ボーズマンか?と話題になっていましたが、83歳というアカデミー最高齢で再び受賞を果たしたアンソニー・ホプキンス。

授賞式は欠席して故郷のウェールズで過ごしていたそうです。

アンソニー役の彼の名演はもちろんのこと、娘・アン役の【女王陛下のお気に入り】(2019)で第91回アカデミー賞主演女優賞を受賞したオリヴィア・コールマンや、その他俳優陣の演技も素晴らしかったです。

マーク・ゲイティスが思わずアンソニーを叩くシーンなど、実際にあり得るであろう、認知症患者を抱える とある一家の物語を垣間見ることができ、なおかつ深く没入して体感することができる作品でした。

重いテーマではありますが、人間どうしても避けることのできない老いと全世界的なテーマとなりつつある認知症についてまっすぐ向かい合った作品だと感じました。

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