映画【スティルウォーター】レビュー。本作は、マット・デイモン主演による、実際にあった”アマンダ・ノックス事件”を映画化した実話。異国で収監された娘を救おうと孤軍奮闘する父親役をマット・デイモン、父親とは距離がありながらも助けを待つ娘役をアビゲイル・ブレスリンが演じています。緊張感溢れる完成度の高いサスペンス作品で、第74回カンヌ国際映画祭では5分間にも及ぶ熱い起立拍手を浴びました。
公開:2022年 アメリカ
原題:Stillwater
配給:パルコ=ユニバーサル映画
監督:トム・マッカーシー
キャスト:マット・デイモン、アビゲイル・ブレスリン、カミーユ・コタン、ムサ・マースクリ
衝撃的実話が映画化
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【スティルウォーター】は、2007年にイタリアでルームメイト殺害の容疑で逮捕され獄中生活を送ったのち、無罪判決を受けてアメリカに戻った”アマンダ・ノックス事件”を基に描かれた映画です。
明確でない情況証拠によって有罪判決を受けた後でも、有罪・無罪についての論争が続いた事件で知られており、この悲劇的な事件の裏に残された人々の物語を伝えるためトム・マッカーシー監督がメガホンを取りました。
背景となるマルセイユの文化と人々をよく知るフランスの脚本家達と協力し、18ヵ月にわたる脚本作業の末に本作を誕生させ、【オーシャンズ11】シリーズ、【エターナル・サンシャイン】(2004)、【ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日】(2012)、【レヴァナント:蘇えりし者】(2015)などのスタッフが加わり製作がスタートしました。
マッカーシー監督特有の洗練されたサスペンス要素はもちろん、繊細な音楽やアメリカとフランスの雰囲気を盛り込んだ精巧なプロダクションは映画の期待度を高めています。
更に、【スティルウォーター】は、アメリカのオクラホマ州に位置する都市名で、映画の反転を導くキーワードになっています。
【スティルウォーター】は、娘の無罪を立証した父親を通じ、”今のこの時代をどう生きていくべきか”という点にスポットを当てています。
すなわと、“黄色ジャーナリズム”(Yellow Journalism)と”差別”という2つの課題を投げかけているのです。
イタリアのメディアは事件の真実を報道するよりも”アメリカ人女子大生の乱れた私生活”に焦点を当て、アマンダに問題があったと報道し、捜査当局もこの報道をベースに捜査を進めたのです。
このため、無罪判決後にイタリアは大恥をかくことになりました。
また、【スティルウォーター】では人種差別や文化的な違いなど、ビルを通じ「差別を受ける事がどれほど恐ろしい事なのか」というメッセージも伝えています。
切迫した父親の孤軍奮闘
ビルは、これまでアメリカのオクラホマを離れた事がなく、石油採掘技術者という立場をリストラされてから建設現場を転々とする労働者になっていました。
その上、アルコール中毒で家庭も疎かだった父親で、娘にはその時の父親のイメージがそのままインプットされています。
過去の自分を正すチャンスを得た父親と、父親を完全に信じられないけれど頼らざるを得ない娘という、あまり見られない父娘関係を描くことで人生の本質的な部分にも触れていきました。
娘は本当に潔白なのか、自分は善良な父親になれるのか、不信と偽りが絡み合って回った状況で、ビルが知った明らかな真実は何なのでしょうか。
最後のシーンでの台詞は、うんざりするほど複雑な人間関係を経験した私達にとっても、いつまでも余韻が残るものとなっています。
娘を救うという典型的なプロットから抜け出し、全ての責任を一人で負おうとするかのように、孤独な父性愛がしっかりと伝わって来ました。
また、全ての過去を埋め一人で黙々と歩いて行くその歩みからは、彼なりの想いが大きな響きとして表現されており、胸を締め付けられます。
印象的なマット・デイモンの演技
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数学の天才者、元レーシング選手、CIA要員、軍人、科学者など多様なキャラクターに扮したマット・デイモン。
本作では娘を救う為に真実を追跡する父親役での演技も、話題の一つとなっています。
【スティルウォーター】では、これまで見られなかった新しいキャラクターに、第74回カンヌ国際映画祭での公開直後、約5分間の起立拍手が続いたようです。
「スティル・ウォーター」オフィシャルサイト
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