箱男-言葉を映像で表現する難しさに挑んだ映画

(C)2024 The Box Man Film Partners
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箱男はどこから現れたのか・・・

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頭から腰にかけて段ボールをすっぽりとかぶった姿で、時には都市を徘徊し、時には段ボールに身を隠してのぞき窓から一方的に世界を見ている「箱男」ですが、安部公房によれば、たまたま街で頭から段ボールを被った浮浪者を見てインパクトを受けたのがはじまりのようです。

また、一見すると箱男と浮浪者はどこが違うのかと疑問に感じてしまいますが、浮浪者は見るだけでなく見られている存在であることから、まだ一般社会の中に帰属しているのに対して、箱男は一方的に見る存在であることから、社会からすっかり切り離された者として描かれています。

いくつかのテーマが複雑に絡み合う「箱男」ですが、映画の中ではこの「見ると見られている」関係というのが大きなテーマになっています。

そしてもう1つ、「箱男」の作品の中で重要なモチーフになっているのは、箱男が段ボール箱の内部やノートに記述される言葉です。

箱男が従来のストーリーとは異なり難解だと思われるのは、この作品が箱男の妄想によって綴られた言葉の物語だということです。

箱男の物語は、箱男によって書かれた言葉からしか判断できないため、箱男を読み進めているうちに、どこまでが本当でどこまでが箱男の妄想なのか、その境界線が曖昧になってしまう居心地の悪さを感じてしまいます。

そのため、箱男のストーリーを追いかけているうちに、知らぬ間に自分が箱男の段ボールの中の迷路に迷い込んだのではという不安感を掻き立てられてしまうのです。

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言葉を映像で表現する限界とは・・・

箱男の映画化が難しかったのは、原作がはじめに物語ありきではなく、はじめに言葉ありきというものだったということもあるでしょう。

原作では、箱男が使用する段ボール箱の細かい描写から始まるのですが、映画ではぼくのかぶる段ボール箱の内部を見せることで細かい描写は避けています。

また、言葉ありきの作品だということで、映画の中でもぼくのモノローグや時には壁に浮かぶ文字が多用されているなど、この辺りは監督もこの作品の言葉の重要性というものがよく分かっていたのでしょう。

ただし、今回の映画は原作を読んでいない観客が観れば、パフォーマンスとしての箱男(および贋箱男)の姿にはインパクトがあるものの、作品そのものに関してはよく分からないといった印象を受けるでしょう。

また、原作を読んだ観客が観れば、原作の持つ過剰ともいえる言葉の洪水に比べると、映像については少し物足りなさを感じる人もいるかもしれません。

ある意味、観る人を選んでいる映画ともいえるのですが、惜しむらくは今回の映画は安部公房の原作による言葉の中の物語に引きずられてしまったあまり、原作とは異なるラストのような終わり方にせざるを得なかったのではという印象を受けました。

映画のラストでは確かに、原作のテーマでもある「見ると見られている」という関係を描いているかと思いますが、安部公房の原作の言葉の中の物語を忠実に映像に再現するあまり、初めに物語ありきの映画になってしまった凡庸さから逃れることはできなかったのではないでしょうか。

つまり、原作では箱男の日常というのはさらりと描かれているのですが、恐らく観客が疑問に感じるであろう、箱男はどうやって暮らしているのか、という点を盛り込んだ方が映画としては良かったようにも思います。(箱男が箱男の姿のまま八百屋の野菜や果物を盗む場面などは映像にピッタリですので。)

安部公房の「箱男」は読む人によって解釈の変わる作品でもあるので、安部公房の言葉の中の物語に引きずられずに、もっと大胆に映像としてアレンジした方が映画としては面白かったかもしれませんね・・・

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Photo:「箱男」(C)2024 The Box Man Film Partners
本ページの情報は2024年9月時点のものです。最新の配信状況は公式ページにてご確認ください。