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「子どものためにやっている」
その言葉が、ここまで残酷な行為を正当化してしまうことがある。
Netflixで配信されるドキュメンタリー『過激育児は誰のため?ジョディ・ヒルデブラントの素顔(原題:Evil Influencer: The Jodi Hildebrandt Story)』は、“過激な育児”という言葉では決して片づけられない、実際に起きた児童虐待事件を追った作品だ。
カウンセラーとして影響力を持ったジョディ・ヒルデブラントと、人気ファミリー系YouTuberだった母親ルビー・フランキー。2人の歪んだ信念が交差したとき、子どもたちは逃げ場のない支配の中に置かれていった。
本記事では、Netflixドキュメンタリーの内容をもとに、実際に起きた事件の経緯とその背景、そしてこの事件が私たちに突きつける社会的な問題を詳しく解説していく。
作品概要
- 2025年/アメリカ/100分
- 原題:Evil Influencer: The Jodi Hildebrandt Story
- 配信:Netflix
- リリース:2025/12/30
事件の概要
2015〜2020年:背景と活動

ルビー・フランキーは、アメリカ・ユタ州を拠点に活動していた主婦で、家族の日常を発信するYouTubeチャンネル「8 Passengers」を運営していた。家族の生活や厳格な育児方針を公開するスタイルで人気を集め、最盛期には200万人以上のフォロワーを獲得している。
一方のジョディ・ヒルデブラントは、臨床カウンセラーとして活動していた人物で、過去にはライセンスの停止歴もあった。彼女は「ConneXions(コネクションズ)」と呼ばれるカウンセリング・コミュニティを立ち上げ、信仰や道徳観を重視した独自の教育・指導法を広めていた。
2人はこの活動を通じて出会い、次第に協力関係を築いていく。やがて、信仰や倫理を強く打ち出した「厳しい躾こそが正しい育児である」という考え方を共有し、その教育メソッドを発信する存在として一部で注目されるようになっていった。
信念がエスカレート
ルビーは、自分や子どもたちに「悪や罪がある」との信念を強め、ヒルデブラントからの影響を受けて、より極端な躾・罰の方法を実践するようになる。子どもたちへの処罰内容は以下。
- 食事制限・飢餓状態
- 長時間の炎天下での立たせ罰
- 手足を縛る行為
- 傷の手当てを香辛料(カイエンペッパーなど)で行う
など、上記はいずれも、明確な身体的・心理的虐待に該当する行為とされている。
この極端な躾・罰は、「罪を追い出す」「良い魂に戻す」というような、宗教的・精神的な正当化のもとで行われていたケースが多い。
2023年8月:事件発覚のきっかけ
2023年8月、この事件は突如として表面化する。ルビー・フランキーの12歳の息子が、ジョディ・ヒルデブラントの自宅から逃げ出し、近隣住民の家に助けを求めたのだ。
発見された少年は、手足にテープが巻かれ、著しく痩せ衰えた状態だったと報じられている。
通報を受けて警察が現場に到着すると、同じく虐待を受けていた9歳の娘も、別の部屋で保護された。いずれの子どもも、長期間にわたり不適切な環境下に置かれていたことがうかがえる状態だったという。
この通報をきっかけに当局は本格的な捜査に着手し、食事制限や身体的拘束など、児童虐待を裏付ける複数の証拠が確認された。
こうして、長く水面下で続いていた異常な状況が、ようやく明るみに出ることとなった。
逮捕・裁判・有罪判決

事件の発覚を受け、ルビー・フランキーとジョディ・ヒルデブラントは2023年8月に逮捕され、複数の児童虐待罪で起訴された。
捜査の過程では、子どもたちが長期間にわたり危険な環境下に置かれていたことが明らかになり、事態の深刻さが浮き彫りとなった。
その後の裁判で、2人はいずれも児童虐待の罪について有罪を認め、2024年2月に判決が言い渡されている。判決では、それぞれ4年から30年の懲役刑が科される可能性のある量刑が示され、司法は本件を極めて重大な虐待事件として扱った。
罪状には、食事制限による深刻な栄養失調状態に置いたことや、身体的拘束を含む長期的な抑圧的措置などが含まれており、「教育」や「しつけ」という言葉では決して正当化できない行為だったことが明確に示されている。
事件の構造的ポイント
インフルエンサーとしての「偽りの顔」
表向きは、大家族の楽しい生活や厳しめの育児法として、多くのフォロワーを魅了していたルビー。しかしそれは、被虐待状態の子どもたちの実態を隠す仮面でもあった。
ヒルデブラントの役割
ヒルデブラントは元カウンセラーであり、信仰や躾の強要から、道徳・精神的な「正しい育児」として虐待を正当化する役割を担っていたと見られる。彼女自身も ConneXions というコミュニティを通じて、信者・支持者を集めていた。
周囲が止められなかった背景
2人の影響力により、家族内だけでなく一部のコミュニティでも「これは正義だ」とみなされる風潮があった可能性がある。
境界線が曖昧になった結果、虐待行為への抵抗や通報も遅れた。専門家は、このケースをインフルエンサーと信仰コミュニティの問題が交錯した典型例と評している。
事件が示す社会的問題【分析】
「過激育児」という言葉が隠してしまうもの
この事件は、単なる「厳しすぎる育児」ではない。子どもを罰し、支配し、人格を否定する行為が、“教育”や“しつけ”という言葉で覆い隠されていたことこそが最大の問題だ。
「正しさ」を盾にした暴力は、疑われにくい。とくに親や指導者が絶対的な立場にいる場合、子どもは声を上げる術を失ってしまう。
インフルエンサーとカルト的構造
ジョディ・ヒルデブラントは、専門家・カウンセラーという肩書きを持ち、SNSやコミュニティを通じて強い影響力を持っていた。
①教えを疑う人は「間違っている」
②従えない子どもは「堕落している」
こうした二元論は、カルト的構造と非常によく似ている。フォロワーや親たちは「正しい側にいる」という安心感の中で、異常性に気づけなくなっていった。
「子どものため」という免罪符
この事件で繰り返し使われていた言葉が「子どものため」だ。
だが本当に守られるべきなのは、親の信念や理想ではなく、子どもの人権と安全である。
どれほど信仰や思想が正しいと信じていても、それが子どもの心身を傷つけるものであれば、それは明確な虐待だ。
突きつけられる問い
このドキュメンタリーは、「極端な家庭の特殊な事件」を描いているようでいて、実はとても身近な問いを投げかけてくる。
・誰が正しさを決めているのか?
・専門家やインフルエンサーの言葉を、私たちはどこまで信じていいのか?
・子どもの声は、きちんと守られているのか?
『過激育児は誰のため?』という問いは、事件の当事者だけでなく、この社会に生きるすべての大人に向けられている。
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