連載コラム「 シネアムール」Number:003
子供、大人に関係なく、怪獣の魅力にとりつかれた人は大勢います。
恐竜は人間が地球上に現れるはるか昔に滅びてしまいましたが、怪獣の魅力にとりつかれた人は、ひょっとしたらこの地球上のどこかに恐竜や怪獣がひっそりと生息しているのではないかと考えたりします。
ネス湖のネッシーなどはその代表格ともいえますが、怪獣はどこかにいるかもしれないという空想は、映画【ゴジラ】の影響も少なからず貢献しているはずです。
1954年に初めてゴジラがスクリーンに現れてから60年以上もの歳月が経ちましたが、何度もシリーズ作品が公開されただけでなく、ハリウッドでも【GODZILLA】(1998) が製作されています。
あのスティーブン・スピルバーグ監督も子供の頃に【ゴジラ】を見て衝撃を受け、その影響から【ジュラシック・パーク】(1993) を撮影したとも言われています。
そこで今回は今なお多くの人々に愛される初代ゴジラが登場した【ゴジラ】を紹介します。
作品情報
1954年/日本
配給:東宝
原作者:香山滋
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監督:本多猪四郎
【ゴジラ】
どのようにしてゴジラが生まれたのかというのには諸説ありますが、【ゴジラ】の元ネタとして【原子怪獣現わる】(1954) というアメリカの怪獣映画があります。
核実験で甦った巨大な怪獣が都市を破壊するという設定は、【ゴジラ】ととてもよく似ています。
また、【ゴジラ】という名前ですが、これはゴリラとクジラという2つの動物を組み合わせた造語ともいわれています。
ハリウッド映画の【GODZILLA】という表記の中にはGOD(神)という単語が含まれています。
いずれにしよ、巨大で力強い怪獣という意味で【ゴジラ】と名付けられたようです。
そんな【ゴジラ】ですが、この映画の見どころは大きく分けて3つあります。
1つはゴジラの登場の仕方です。
映画の冒頭で貨物船「栄光丸」をはじめとする船が次々と消息不明になる場面では、ゴジラの姿は見えないため人々は事故ではないかと噂します。
次に暴風雨の大戸島での場面では、家屋が次々と破壊される中、聞こえてくるのはゴジラの重量感のある足音のみです。
最初、人々は災害が島を襲ったのではと考えるのですが、翌朝になって巨大な足跡が発見されたことから、ゴジラが島に上陸したことを伺わせます。
そして、いよいよ大戸島にゴジラが現れるのですが、ここで見えるゴジラの姿は首から上でゴジラの全体像は見えません。
ゴジラがその姿を現すのは、東京に上陸し街を次々と破壊する場面です。
この辺りのゴジラの登場の仕方はよくできているといえます。
次に、この映画の最大の見せ場は何といってもゴジラが東京を破壊する場面でしょう。
この映画の特撮は、後にウルトラマンなどの特撮でも有名な円谷英二で、【ゴジラ】は人間が着ぐるみを着て演技をする初の特撮映画といわれています。
ゴジラが東京を破壊する場面の特撮は、ところどころミニチュアというのが分かってしまうものの、CGに負けずとも劣らない今見ても迫力満点な映像です。
特にこの時代は今ほど高層ビルが建っていないということもあり、あたかも地平線の海の向こうから破壊神であるゴジラが街を破壊しにやってきたかのような迫力があります。
ここでゴジラはなぜ東京を破壊しようとしたのかという疑問が残ります。
ゴジラが現れるのはいつも夜で、夜が明けると海へと帰っていきます。
ゴジラは別名水爆怪獣と呼ばれていました。
たび重なる水爆実験から目覚めたことや、ゴジラが口から放射能を吐く怪獣であることから、核兵器に対する脅威を現したともいえます。
また、ゴジラが品川から上陸するというコースは、東京大空襲と同じコースではないかともいわれています。
この映画が製作された1954年は、終戦からわずか9年しか経っていません。
戦争の傷跡から少しづつ回復したとはいえ、戦争の記憶は人々にまだ生々しく残っている時代です。
そんな時代にこの【ゴジラ】を見ると、当時の人々の戦争に対する不安や恐れがゴジラに反映されているともいえそうです。
最後の見どころとしては、志村喬演じる科学者の山根恭平博士および平田昭彦演じる山根恭平博士の愛弟子である芹沢大助教授の学者としての思想でしょうか。
ゴジラは人類の脅威であるとして、ゴジラを倒そうとするのに対して、山根博士はなぜゴジラを研究対象として見ることができないのかと述べます。
一方で、芹沢教授はゴジラを倒すことができる液体中の酸素破壊剤「オキシジェン・デストロイヤー」を発明するものの、これが悪用されることを恐れ、自ら使用することでゴジラと共に消滅する道を選ぶのでした。
この芹沢教授の恐れを見ると、原子爆弾とアインシュタインの関係を思い浮かべます。
相対性理論で有名なアインシュタインは、ドイツよりも先にアメリカが原子爆弾を作るべきだという手紙をアメリカ大統領に送り、それがきっかけでアメリカが原子爆弾の開発に携わったといわれています。
ですが、その結果として広島と長崎に原爆が投下されるという悲劇が起こりました。
そのため、晩年アインシュタインは「私はひとつ大きな間違いを犯してしまった。ルーズベルト大統領に原子爆弾を作ることを勧めた手紙に署名したことだ。」と述べました。
【ゴジラ」では未知のものに対する飽くなき探求と、自らの研究が自分が意図したものとは別のものに使用されるのではないかという恐れというものが、この2人の科学者を通じて表現されています。
そして平和を願うばかりに、自分が発明したオキシジェン・デストロイヤーを使用せざるを得なかった芹沢博士の苦悩といったものもよく表されています。
【ゴジラ】は特撮技術が今見ても色褪せないのはもちろんですが、終戦からまだ時代が経過していないにも関わらず、ひたすら技術へと突き進む人間の驕りと核兵器の脅威に曝される人類への警告として作られた映画とも見ることができ、それを象徴したものがゴジラとして姿を現したともいえるでしょう。
「ゴジラ」オフィシャルサイト
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