後味の悪い映画5選。見なければ良かったと思うか、それとも……。

人は何を求めて映画を見るのでしょうか。

ある人は、ヒーローが悪役を倒すのを見てスカッとした気分になるのを期待して映画を見るかもしれません。

また、ある人は恋人同士が最後に結ばれるのを感動したいために映画を見ることもあるでしょう。

では、映画館を出た時に、何ともいえないモヤモヤした気分が残る映画というのは?

後味の悪い映画を見た場合、人はそうした映画に何を求めるのでしょうか。

後味の悪い映画というのは、人によって幾通りもの解釈ができるし、何を期待して見るかも人さまざまです。

人によって期待するものが違う、かくして後味の悪い映画は上映され、それぞれの思いを込めて人は映画館に足を運んでいきます。

そこで、今回はそんな後味の悪いコアな映画を5選ご紹介します。

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「吸血鬼ゴケミドロ」

作品解説

「吸血鬼ゴケミドロ」出典:Amazon.co.jp

吸血鬼ゴケミドロ】(1968) は、監督が【海底大戦争】(1966) の佐藤肇で、宇宙生物であるゴケミドロが地球を侵略し、人類が滅亡することを予感させて終わるという映画です。

この映画の後味の悪さは、最後まで生き残った二人が命からがら逃れたかと思えば町の人々は皆殺しにされ、人類の滅亡を予感させるところでエンディングを迎えるところでしょう。

救いのない世界を描いたという点で、映画を見終わった者に何とも言えない砂を嚙むような余韻を残します。

【吸血鬼ゴケミドロ】(1968) はこれまでの地球外生物とは異なり、人に寄生することで吸血鬼に変えて人間を襲うアメーバ状の生物というのも、どこかグロテスクなものがあります。

映画では人間の額がぱかっと割れ、そこからアメーバ状の生物が這うようにして人間の体内に侵入しますが、人間に寄生する侵略者というのも得体のしれない気味悪さを感じさせてくれます。

また、ゴケミドロに規制された人間は人の生き血を吸う吸血鬼となるのですが、白昼も堂々と近づいてくる姿はさながらゾンビのようです。

映画の舞台は墜落した旅客機という閉ざされた空間というのも、ジョージ・A・ロメロ監督の【ナイト・オブ・ザ・リビングデッド】(1968) をふと連想させたりもするので、映画が作られた年代が同じということを考えると、ゾンビのような吸血鬼という見方もあながち間違ってはいないかもしれません。

【吸血鬼ゴケミドロ】(1968) は、かつてはテレビで放送されていましたが、割れた額からスライムのようなアメーバーが体内に入るという場面は一度見たら忘れられないほどのトラウマを与えてくれました。

映画が前編モノクロで、水を飲みたくて外に出た政治家がゴケミドロに血を吸われ断末魔の叫びをあげる場面が鮮明に記憶に残っていたのですが、何十年ぶりに見た映画は前編カラーで、鮮明に記憶に残っていた場面も映画にはありませんでした。

そのせいかは分かりませんが、後味の悪さを覚えながらも映画を再見することで、子供の頃のトラウマからようやく解放されたのでした。

基本情報

公開・製作国:1968年、日本

監督:佐藤肇

配給:松竹

キャスト:吉田輝雄、佐藤友美、北村英三、高橋昌也

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©1968 松竹株式会社

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「殺しが静かにやってくる」

作品解説

「殺しが静かにやってくる」出典:Amazon.co.jp

【殺しが静かにやって来る】(1969) は、監督が【続・荒野の用心棒】(1966) で有名なセルジオ・コルブッチで、悪党への復讐を依頼されたガンマンであるサイレンスをジャン=ルイ・トランティニャンが演じています。

日本の時代劇が安心して見ることができるのは、途中で危ない目にあったとしても最後には主人公が悪人を懲らしめるということが暗黙の了解としてあるからです。

ですが、もしも水戸黄門が最後に殺されたり、必殺仕事人で中村主水が悪人にやられてしまったとしたらどうでしょうか。

現実と違って映画では最後には必ずヒーローが悪人をやっつけるという暗黙の了解があるからこそ、人はそこにカタルシスを感じるのですが、逆にヒーローが悪人に、それもなすすべもなくやられてしまったとあっては、映画を見た後のもやもやした気分は半端ないものになるでしょう。

【殺しが静かにやって来る】(1969) でのサイレンスは腕利きのガンマンですが、手を負傷したためにまともに銃を握ることができず、とても悪役一味とは対等に戦うことはできないのですが、捕まえた村人たちを皆殺しにすると言われ立ち上がります。

しかし、卑劣にももう一方の手も撃たれることで銃を握ることができなくなり、なすすべもなくクラウス・キンスキー演じる賞金稼ぎのロコに殺され、村人も皆殺しになってエンディングとなります。

実はDVDの特典には、死んだと思った保安官が実は生きていてサイレンスと共に悪人をやっつける別バージョンのエンディングを見ることができます。

しかし、作品全体を通して感じられる緊迫した場面から浮いているため、もしそのエンディングが採用されたなら、悪人を倒すカタルシスを感じることはできても、映画を見ている者のはりつめた気持ちは台無しになり、ありふれたアクション映画となってしまったことでしょう。

サイレンスが最後になすすべもなく悪人に殺されるというのは、ジャン=ルイ・トランティニャンが監督に提案したそうですが、このエンディングがあるからこそ見る者に最後まで緊迫したなんともやりきれない気分を与えてくれます。

一説では、イタリアでこの映画を見た観客の1人が、スクリーンに向かって発砲したそうですが、ヒーローが死に悪役がのさばるというのはそれだけ後味の悪い出来事なのですね。

基本情報

公開・製作国:1969年、イタリア

監督:セルジオ・コルブッチ

原題:Il grande silenzio/The Great Silence

配給:20世紀フォックス

キャスト:ジャン=ルイ・トランティニャン、クラウス・キンスキー、ヴォネッタ・マギー

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「赤い影」

作品解説

「赤い影」出典:Amazon.co.jp

【赤い影】(1983) は監督が【地球に落ちて来た男】(1977) のニコラス・ローグで、原作はダフニ・デュ・モーリエの短編「いま見てはいけない」を映画化したものです。

西洋の怖い絵画には、可憐な女性にからみつくように死神や骸骨の姿が描かれているものがあります。メメントモリという有名な言葉があるように、西洋にとっては死というのは常にそこにあるものだったのでしょう。

【赤い影】(1983) は、ドナルド・サザーランド演じるジョン・バクスターが、ヴェニスの町で死の影から付きまとわれ、逃れることのできなかった物語です。

この映画で興味深いのは、娘の死からなかなか立ち直れなかった妻のローラ・バクスターは、霊媒師の助言で娘の霊を信じるものの、実際には娘の霊を感じることができなかったのに対して、夫のジョン・バクスターは物事を合理的に考え、娘の霊を否定するものの赤い影、娘が死んだときに来ていたレインコートの影(というのは死の影でもあったのですが)その影から常につきまとわれていたということです。

ジョン・バクスターは、妻が会った霊媒師の存在を胡散臭いものと感じるのですが、そのことはジョン・バクスター自身がある種の予知能力を持ち何かを感じていたとしても、合理的な思考が邪魔をして、霊媒師だけでなく自分のそうした力も受け入れることができなかったのです。

映画の冒頭で娘が池で溺れる場面では、彼の能力は予感として現れますが、自分の葬式を見る場面ではそれが幻視として現れます。

自らの死を予知として見てしまったジョン・バクスターは、死んだ娘の赤い影に突き動かされるように死にとりつかれ、最後までそこから逃れられることはできませんでした。

思えば、ヴェニスはトーマス・マンの「ヴェニスに死す」でも、作家グスタフ・フォン・アッシェンバッハは美少年の影にとりつかれると共に死の影にとりつかれ、そこから逃れることはできませんでした。

そういう意味では、ヴェニスには観光地という表の顔とは別に、死に取りつかれた者を引き込む裏の顔というものがあるのかもしれません。

基本情報

公開・製作国:1983年、イギリス、イタリア

監督:ニコラス・ローグ

原題:Don’t Look Now

配給:ブリティッシュ・ライオン・フィルム

キャスト:ドナルド・サザーランド、ジュリー・クリスティ、ヒラリー・メイソン

配信[Prime Video] (PR) [TSUTAYA DISCAS] (PR)

©Tamasa Distribution

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「ゴーン・ガール」

作品解説

「ゴーン・ガール」出典:Amazon.co.jp

【ゴーン・ガール】(2014) は、監督が【ファイト・クラブ】(1999) の デヴィッド・フィンチャーで、2012年にギリアン・フリンが発表した同名小説が原作です。

この映画は夫のニコラスと妻のエイミーそれぞれの視点から語られますが、どちらの側に立って見るかによって評価が異なるような映画です。

最初、妻がなにがしかの事件に巻き込まれ行方不明になったと思われた事件ですが、現場を調べているうちに、状況証拠などから妻を殺害したのではないかという疑惑に夫が追い詰められていきます。

ベン・アフレック演じるニコラスは、どうもいけていない夫というイメージを見る者に印象づけるものの、あくまでも失踪した妻を見つけようとする気の毒な夫です。

そのことと対応するかのように、エイミーと知り合い結婚するまでの幸せそうな回想シーンが所々に挟まれていきます。

ですが、実は夫が妻を殺したと偽装することで、夫を破滅させようとしたロザムンド・パイク演じるエイミーの回想が入って来るにつれて、どのようにしてニコラスがいけていない夫になっていったかというのが映画を見る者に暴かれていきます。

この映画を見て、ニコラスをどうしようもない夫としてとらえてしまうか、それともエイミーを恐ろしい悪女としてとらえるかは人によって異なるでしょう。

ただ、【ゴーン・ガール】が他の悪女の映画と異なるのは、いったんは夫を破滅させようとして失踪したエイミーが元のさやに戻ったことでしょうか。

ニコラスはエイミーの怖さをひしひしと感じつつも、美談にまとめられた世間体のために良き夫を演じ続けなければならなくなりました。

最初の回想シーンは、本心から良き夫であったニコラスがラストではエイミーのなすがままに良き夫を演じなければならなくなりました。

エイミーは、幼少期から父親の書いた児童文学シリーズのモデルだったのですが、いつもこのモデルのように完璧にはなれないと考えていました。

ラストのインタビューの場面で、ニコラスの手をエイミーが握ったとき、彼女は初めて父親の書いたモデルと自分が同じになったと感じたように見えます。

これを幸福と呼ぶのかどうか、エイミーにとっては幸福だとしても、ニコラスにとってはそれは後味の悪い悪夢のような幸福だったのです。

基本情報

公開・製作国:2014年、アメリカ

監督:デヴィッド・フィンチャー

原題:GONE GIRL

配給:20世紀フォックス

キャスト:ベン・アフレック、ロザムンド・パイク、ニール・パトリック・ハリス

公式サイト:URLを記入

配信[U-NEXT](PR) [Prime Video] (PR) [Netflix][dTV ] [TSUTAYA DISCAS] (PR)

©2014 Twentieth Century Fox

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「凶悪」

作品解説

「凶悪」出典:Amazon.co.jp

【凶悪】(2013) は監督が【彼女がその名を知らない鳥たち】(2017) の白石和彌で、ノンフィクションベストセラー小説である「凶悪 -ある死刑囚の告発-」を原作とした映画です。

この映画の後味の悪さは、ピエール瀧演じる元暴力団組長の須藤とリリー・フランキー演じる、先生と呼ばれている不動産ブローカーの木村の悪と心の闇に対する圧倒的な存在感でしょう。

この二人は何の葛藤やためらいもなく、まるでモノを壊してしまうかのように老人達を殺しまうところに恐ろしさと後味の悪さを感じてしまいます。

人を殺すことに何のためらいもないことは、殺害した老人を焼却炉で燃やそうとする際に、体が入りきらないために鉈で体を切断する場面や、肝臓が悪く余命いくばくもない老人にお酒を飲ませ続けて殺害する場面などに現れています。

特に、お酒を飲ませ続け、最後は先生がやばいよと言いながらも、ウオッカを老人の口に最後の一滴まで流し込んで殺害する場面は、見る者にかなりの不快感を与えます。

須藤の何のためらいもなく人を殺す暴力性もショッキングなのですが、須藤に殺人を教唆する先生と呼ばれる木村の闇の深さが見る者により大きな衝撃を与えます。

最初の老人の首を絞めて殺した後に木村が呟く、「あ、殺してしまった」という言葉のあまりの軽さを聞くと、そこには暴力的な須藤が持つ闇よりも深いものが木村にはあるような気がしてなりません。

映画は山田孝之演じる記者の藤井が、東京拘置所に収監中の死刑囚・須藤から届いた手紙をきっかけに記事を書くことで木村の逮捕に繋がっていくのですが、この映画で気になるのは、記者の藤井の事件に対する執着の強さと映画全体に漂う彼の表情の暗さです。

最後の場面で、藤井は木村と面会をするのですが、木村に「本当に私を殺したがっているのは君だ」と言われ、藤井の表情が次第に遠のいていき、画面が暗くなるところで映画が終わります。

藤井がここまでこの事件に執着したのは、木村の中にある深い闇を藤井も少なからず持っていたからではないでしょうか。

木村の放つ暗い闇の電波を藤井が感じとることができたために、これほど事件に執着したともいえますが、自分でも気が付かなかった闇に気づいてしまう危険性が藤井の表情の暗さに現れているようです。

【凶悪】(2013) は1999年に実際に起きた凶悪殺人事件を基にした映画ですが、映画を見た者が感じるのは、こうした殺人事件が実際に行われたという驚きよりも、映画での藤井のように、先生と呼ばれた木村が抱える闇の深さというものが、ひょっとしたら自分にもあるのではないだろうかと思わせる後味の悪さではないでしょうか。

基本情報

公開・製作国:2013年、日本

監督:白石和彌

配給:日活

キャスト:山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキー、池脇千鶴

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©2013「凶悪」製作委員会