心の残る映画を観た時、その映画に原作があるのを知ると、原作も読んでみたくなる時がありますが、原作を読んだときに、どうも映画とは違うという印象を持つこともよくあります。そこで今回は、原作と映画を比べてみながら、魅力的な映画を5作品紹介していきます。
【鳥】
作品解説
【鳥】(1963) は、【サイコ】(1960) などといったサスペンス映画で名高いアルフレッド・ヒチコックが監督したパニック映画です。
それまで愛らしい存在でしかなかった鳥が人を襲いはじめる、というショッキングな映画でしたが、鳥がどうして人間を襲うのかということは映画の中では描かれていませんでした。
【鳥】はダフネ・デュ・モーリアの短編で表題も同じですが、映画と原作ではラストの場面がまったく異なるのです。
原作のラストは、傲慢な人間に鳥が攻撃を加えることで世界を滅びようとしているのではないか、という終末観をほのめかせて話が終わります。
映画の【鳥】 を観た方は多いでしょうが、原作は意外と知られてませんので、原作を読んで比べてみるのも面白いでしょう。
基本情報
公開・製作国:1963年 アメリカ
キャスト:ロッド・テイラー、ジェシカ・タンディ、スザンヌ・プレシェット
配給:ユニバーサル・ピクチャーズ
原作:「鳥」ダフネ デュ・モーリア
Rotten Tomatos
批評家の評価|95%
オーディエンス評価|83%
【ロング・グッドバイ】
作品解説
【ロング・グッドバイ】(1973)はアメリカのハードボイルド映画で、監督は【M★A★S★H】(1970) などで知られているロバート・アルトマンです。
原作はレイモンド・チャンドラーの「長いお別れ」。
私立探偵のフィリップ・マーロウは、ハンフリー・ボガードやロバート・ミッチェムなどといった俳優によって演じられてきました。
この2人が原作のイメージ通りのマーロウを演じたのに対して、【ロング・グッドバイ】でエリオット・グールドの演じるマーロウはいい意味で期待を裏切られます。
舞台を1950年から1970年代の混沌としたムード漂うアメリカに移し、冒頭から飼い猫の餌を買いに夜の街をさまようマーロウというのは、それまでのタフが売り物のハードボイルドにある種の軽妙さが加わりました。
原作を読んだファンというのは難しいもので、思い入れのあるコアなファンほど映画の人物に難癖をつけたがるものです。
であるならば、思い切って原作を裏切るくらいに人物のイメージを変えてしまうのも、映画化の1つの方法だといえます。
基本情報
公開・製作国:1974年 アメリカ
キャスト:エリオット・グールド、ニーナ・ヴァン・パラント、スターリング・ヘイドン
配給:ユナイテッド・アーティスツ
原作:「長いお別れ」レイモンド・チャンドラー
LONG GOODBYE, THE © 1973 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC.. All Rights Reserved
Rotten Tomatos
批評家の評価|93%
オーディエンス評価|88%
【スローターハウス5】
作品解説
【スローターハウス5】(1972) はアメリカのSF映画で、監督は【スティング】(1974) や【ガープの世界】(1983) などを撮ったジョージ・ロイ・ヒルです。
原作は1969年に発表されたカート・ヴォネガットの同名の小説です。
この小説はとても複雑な構成をしていて、過去・現在・未来がランダムに描かれているせいか、映画化が難しい作品ではないかといわれていました。
しかし、原作を読んだ後に映画を観ても、まったく違和感のないように作られているのはさすがです。
【スローターハウス5】 の冒頭のシーンで、辺り一面真っ白の雪の世界にかぶさるようにグレン・グールドのピアノが聞こえてくるのは素晴らしいのひと言です。
この場面だけでもこの映画を観る価値は十分あります。
基本情報
公開・製作国:1972年 アメリカ
キャスト:マイケル・サックス、ロン・リーブマン、ユージン・ロッシェ
配給:ユニバーサル映画
原作:「スローターハウス5」カート・ヴォネガット
Rotten Tomatos
批評家の評価|82%
オーディエンス評価|68%
【蜘蛛女のキス】
作品解説
【蜘蛛女のキス】(1985年) はアメリカとブラジルによる合作映画で、監督はブラジルの監督エコール・バベンコ、脚本をアメリカの脚本家レナード・シュレイダーが担当しました。
原作はアルゼンチンの作家マヌエル・ブイグによる同名の小説です。
作者が映画好きということもあり、この小説は小説の中に複数の映画のストーリーが会話形式で挿入されているという、メタ映画とでもいうべき複雑な構造をした話です。
また、舞台は刑務所の中で、小説では会話形式で話が進んでいくため、映画化は難しいと思われましたが、トランスジェンダーのモリーナを演じるジョン・ハートの演技によって、小説と比べてもまったく違和感のない映画となっています。
もっともそこは映画ですので、所々で語られる映画のワンシーンが挿入されるのですが、刑務所という閉ざされた空間でのあの演技はさすがといえます。
基本情報
公開・製作国:1985年 ブラジル、アメリカ
キャスト:ウィリアム・ハート、ラウル・ジュリア、ソニア・ブラガ
配給:Island Alive、 ヘラルド・エース=デラ・コーポレーション=日本ヘラルドユナイテッド・アーティスツ
原作:「蜘蛛女のキス」マヌエル・ブイグ
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Rotten Tomatos
批評家の評価|87%
オーディエンス評価|81%
【エル・スール】
作品解説
【エル・スール】(1983) は抒情性と風景の美しさが見事にマッチしたスペイン映画で、監督は【ミツバチのささやき】(1973) のビクトール・エリセです。
あまり知られていませんが、原作は日本でも翻訳され、作者のアデライダ・ガルシア=モラレスはかつてエリセの妻だった人です。
【エル・スール】とは日本語で「南へ」という意味ですが、原作と映画ではこの【エル・スール】 の描かれ方が異なります。
原作では少女エストレーリャが、かっての父親の恋人と息子に会うために南へと旅立つのに対して、映画では父が自殺した後、南へと旅立つことを予感させる終わり方となっています。
原作に忠実に描くのか、それとも原作とはまた違った映画にするのか、どちらがいいのかはなかなか難しいところです。
しかし、ビクトール・エリセの映画の素晴らしいところは、あえて説明することなく、この先どうなるかという余韻を持たせることで語られない部分を映画の中で描いてみせていると言えるでしょう。
基本情報
公開・製作国:1985年 スペイン
キャスト:オメロ・アントヌッティ、ソンソレス・アラングーレン、イシアル・ボリャン
配給:フランス映画社
原作:「エル・スール」アデライダ・ガルシア=モラレス
©2005 Video Mercury Films S.A.
Rotten Tomatos
批評家の評価|100%
オーディエンス評価|92%