好きな俳優の映画をいくつか見ているうちに、自分の中で俳優のイメージというものが出来上がってきます。
そうしたイメージを裏切らない俳優もいるのですが、中にはイメージを作られるのを嫌い、ファンが持つイメージを壊していこうとする俳優もいます。
どうやら、個性的な俳優ほど固定されたイメージを持たれるのを嫌い、イメージを裏切ることで役者の幅を広げようとしているようです。
そんな俳優の映画を見ていると、自分がそれまで持っていた俳優のイメージとのギャップにいい意味で驚かされることがあります。
そこで、今回はいい意味でイメージを裏切られるような、インパクトのある役で出演している俳優の映画を紹介します。
【トラック野郎・爆走一番星】
作品解説
【トラック野郎・爆走一番星】(1975) は、監督がこのシリーズ作品を手がける鈴木則文で、主役の星桃次郎(一番星)を菅原文太が演じています。
それまでヤクザ映画のイメージが強かった菅原文太でしたが、【トラック野郎・爆走一番星】では男気を見せつつも、コミカルな三枚目の役どころを器用に演じているのが見どころです。
このシリーズは長距離トラックの運転手である星桃次郎が、毎回マドンナに片思いをするものの最後には振られてしまうという、男はつらいよの寅さんを意識した作品になっています。
この作品でも、マドンナのあべ静江演じる女子大生の高見沢瑛子を一目見るなり惚れていまいました。
マドンナの高見沢瑛子が文学少女で太宰治が好きと分かるや、学ラン姿で「人間失格」を目の前で読んだり、トラックのデコレーションに「生まれてきてすみません」という文言を入れるなど、インテリぶりを無理に見せようとするギャップが可笑しさを生みます。
こうした三枚目を演じる菅原文太も意外な役なのですが、この作品でより意外な役で出演しているのは、ボルサリーノ2を演じる田中邦衛です。
ボルサリーノというのは、ジャン=ポール・ベルモンド、アラン・ドロンが出演した映画【ボルサリーノ】(1970) からとったのでしょうが、長距離トラック運転手にもかかわらず上下のスーツにサングラスをかけ、葉巻をくゆらすというギャングのような姿のギャップには強烈なインパクトがあります。
テレビドラマ「北の国から」にイメージが固定したかのような田中邦衛ですが、もともとは若大将のライバル青大将を演じるなど、脇を固めるねちっこい個性的な役どころが魅力でした。
【トラック野郎・爆走一番星】では、食堂での一番星とボルサリーノ2の大立ち回りの後の、ボルサリーノ2のやりきれない独白も田中邦衛の魅力がいかんなく発揮されています。
基本情報
公開・製作国:1975年、日本
監督:鈴木則文
配給:東映
キャスト:菅原文太、愛川欽也、あべ静江、 田中邦衛
配信:
©東映
【八つ墓村】
作品解説
【八つ墓村】(1977) は、監督が【砂の器】(1974) の野村 芳太郎、横溝正史の同名小説を原作とした作品です。
萩原健一演じる寺田辰弥が自分の出生の謎を知るために岡山の八つ墓村にやってきますが、彼の帰郷と呼応するかのように連続殺人事件が起こります。
八つ墓村は、戦国時代に村人により惨殺された武将が死の間際に叫んだ末代まで祟るという恨みからか、当時の首謀者が突如に発狂し、村人を殺した後自分の首を刎ねて死ぬという出来事や、辰弥の父である山崎努演じる多治見要蔵も同じように発狂した後村人を惨殺した事件があったことから、今回の事件も八つ墓村の祟りだと村人から恐れられるようになります。
そこで名探偵金田一耕助が事件を解決しようとするのですが、この作品では金田一耕助役を渥美清が演じ、舞台も現代に置き換えられていることから、探偵というよりはどこか大学の先生がフィールドワークにやってきたかのようなイメージがします。
金田一耕助といえば、石坂浩二や古谷一行が演じたぼさぼさ髪に袴姿というイメージが強いことからも、この作品での金田一耕助はかなり異色といってもいいでしょう。
また、作品自体も推理ものというよりは、横溝正史の作品が持つオカルト色を前面に押し出した作品となっているため、金田一耕助がメインとなって事件を解決するというよりは、探偵が一種の狂言回しのような役割になっています。
原作では八つ墓村の呪いを利用した殺人事件という形で金田一耕助が事件を解決するのに対し、この作品では祟りにより呪われた一族の崩壊とばかり、最後に多治見家が火事により崩壊するさまはまるでエドガー・アラン・ポーの短編小説である「アッシャー家の崩壊」のようでもあります。
推理ものというよりはかなりオカルト色の強い作品となっているせいか、多治見要蔵が村人を惨殺する場面での山崎努の表情はまるで鬼のような形相であり、洞窟で辰弥を殺そうと追いかけまわす小川真由美演じる森美也子の形相は怒りに狂う般若のようでもあります。
こうした怪奇色の強い作品となったのは、当時のオカルトブームの影響によるものもあるのかもしれません。
基本情報
©1977 松竹株式会社
【ギルバート・グレイプ】
作品解説
【ギルバート・グレイプ】(1994) は、監督が【マイライフ・アズ・ア・ドッグ】(1988) のラッセ・ハルストレム、ピーター・ヘッジズの同名小説が原作の映画です。
ジョニー・デップ演じるギルバート・グレイプはどこにでもいる普通の青年ですが、知的障害の弟の世話をし家族の生活を支えることに日々追われることで、どこかやりきれない日々を過ごしていました。
しかし、旅の途中でトレーラーが故障したことから、ギルバート・グレイプの住む町にとどまることになったジュリエット・ルイス演じるベッキーと出会い、打ち解けることで次第に自分のことを見つめるようになっていきます。
こうした登場人物の内面が描かれる、淡々としたストーリーの地味ともいえる映画なのですが、それにもかかわらず映画を見た後の余韻が強く残る映画でもあります。
その理由の1つは、ギルバート・グレイプが抱えている焦燥感ややりきれなさと共に、自己犠牲と自分らしく生きたいという板挟みに悩む姿というのが、多かれ少なかれ誰もが一度は経験したことがあるということに共感を覚えるということが挙げられます。
そして、そんな誰もが一度は悩む青年の役を演じるジョニー・デップの魅力もそうなのですが、この映画で最もインパクトがあるのは、知的障害を持つ弟のアーニー・グレイプをレオナルド・ディカプリオが見事に演じていることです。
役どころとしてはかなり難易度の高い演技が要求されるにもかかわらず、ディカプリオは自由奔放で嘘偽りのない演技を見せてくれます。
この弟の演技が生きるからこそ、ギルバート・グレイプの弟に対する愛情も見る者にひしひしと伝わってきます。
父親の自殺や知的障害を持つ弟に肥満で過食症の母と、言葉を並べただけでは悲惨な話の映画のようにも思えるのですが、映画を見ていると辛い中にもどこか人間的な暖かさが感じられるのは、この映画を撮る監督の眼差しの暖かさではないでしょうか。
基本情報
公開・製作国:1994年、アメリカ
監督:ラッセ・ハルストレム
原題:What’s Eating Gilbert Grape
配給:ブエナビスタ
キャスト:ジョニー・デップ、レオナルド・ディカプリオ、ジュリエット・ルイス
配信:[U-NEXT](PR)
TM & Copyright © MCMXCIII by PARAMOUNT PICTURES CORPORATION All Rights Reserved
【リアリズムの宿】
作品解説
【リアリズムの宿】(2003) は、監督が【リンダ リンダ リンダ】(2005) の山下敦弘で、つげ義春の同作品および「会津の釣り宿」の2作品が原作の映画です。
顔は知っているもののさほど親しい仲ではなかった長塚圭史演じる脚本家の坪井小介と、山本浩司演じる映画監督の木下俊弘が、共通の友人である舟木と一緒に旅行をすることにしました。
しかし、舟木が待ち合わせの駅に現れなかったことから、何となく気まずい雰囲気を漂わせたまま温泉街を旅する2人と、服も鞄も全部海に流されてしまったいう尾野真千子演じる自称21歳の川島敦子が加わるという、ゆるゆる感が満載のロードムービーです。
それまで、さほど親しくないもの同士のぎこちない関係が続くだけでなく、宿泊する予定だった宿は閉まっていたり、代わりに泊まった宿では外国人の主人からヤマメを無理やり買わされたりお酒を盗まれたりと散々でした。
そんな2人の元に敦子が加わってから、童貞の木下はテンションが上がるものの、それを少し醒めた目で見ている坪井といった微妙な関係でした。
少しこの辺りの関係はジム・ジャームッシュの【ストレンジャー・ザン・パラダイス】(1986) を意識しているのかもしれません。
しかし、折角出合った敦子はバスを待っている間に別のバスでどこかに行ってしまい、また2人の旅に戻ってしまいます。
その後、2人は所持金が尽きかけたことから商人宿のような所に泊まるのですが、あまりの最悪な場所のため宿の悪口を言っているうち次第に2人の関係も打ち解け、東京に戻ったら一緒に脚本を書こうという仲になります。
映画のラストで2人はもう一度敦子に出合うのですが、彼女は東京からやってきた21歳というのは嘘で実は地元の女子高生でした。
小さく手を振る敦子に、2人は小さく会釈をするのでした。
と、原作がつげ義春ということもあり、劇的な物語があるわけでもないのですが、2人のぎこちない関係や敦子に対する童貞の木下と彼女に振られたばかりという坪井の立ち位置などが微妙に可笑しい映画です。
尾野真千子は、1996年にロケハンのために彼女の地元を訪れていた監督の河瀬直美が声を掛けたことから、【萌の朱雀】(1997) がデビュー作品となりました。
もともと演技には定評がありましたが、全国的に知られるようになったのはNHKの連続テレビ小説のヒロインに抜擢されてからということを考えると、女子高生を演じていたこの作品はなかなか貴重なものといえるのではないでしょうか。
基本情報
【HK 変態仮面】
作品解説
【HK 変態仮面】 (2013) の監督は福田雄一、原作はあんど慶周の漫画「究極!!変態仮面」で、主演の変態仮面に変身する色丞狂介を鈴木亮平が演じています。
立派な体をしているものの内気でケンカにはからっきし弱い高校生の色丞狂介が、女性の下着を被ると変態仮面に変身することができ、次々と悪者をやっつけていくというのが大まかなストーリーです。
映画のタイトルおよび変態仮面のコスチュームを見ると、思わず眉をひそめたくなるかもしれませんが、ストーリー自体は正義のヒーローが変身をすることで悪者を倒していくという王道路線を踏襲したもので、頭に下着を被って変身するというのがこれまでのヒーロー物にはなかったユニークさともいえますし、ある意味ではヒーロー物のパロディともいえます。
【HK 変態仮面】 (2013) は、NHKの大河ドラマ「西郷どん」でブレークした鈴木亮平が変態仮面を演じているのもインパクトがありますが、色丞狂介を演じるために体重を一度15kg増量した後に脂肪をそぎ落とすことで筋肉質の体を作ったというエピソードには彼の役者根性を感じさせてくれます。
他にも、真面目仮面を演じる佐藤二朗や、色丞狂介の通う学校を廃校にしようと企む大金玉男をムロツヨシが演じているなど、意外な役で出演している役者のオンパレードといった映画ですが、圧巻なのは安田顕演じる数学教師およびニセ変態仮面の戸渡でしょうか。
正義の味方である変態仮面に対して、ニセ変態仮面は街を歩いている女性のスカートをめくるなどといった変態ぶりを発揮するのですが、今でこそ個性派俳優と呼ばれている安田顕がやっているのを見ると、そのギャップに驚かされるばかりです。
頭に下着を被った戸渡が色丞狂介に語る変態観もかなりのインパクトがあります。
他にも姫野愛子を演じる清水富美加や、色丞狂介の母でSMクラブの女王である色丞魔喜を片瀬那奈が演じたりと、出演する役者の意外な一面を見るにはとても面白い映画といえます。
基本情報
公開・製作国:2013年、日本
監督:福田雄一
配給:ティ・ジョイ
キャスト:鈴木亮平、清水富美加、安田顕、ムロツヨシ
公式サイト:URLを記入
© あんど慶周/集英社・2013「HENTAI KAMEN」製作委員会