有名無名に関わらず、どんな人物にもそれぞれの歴史がありますが、教科書で習う歴史は有名な人物しかスポットが当てられていません。しかし、映画では誰もが知っている人物を描くことがあれば、映画でしか知ることのできない人物を描くこともあります。どちらの映画も人の心を動かし、共感を覚える人間の姿というのは、いつの時代でも変わらないからでしょうか。そこで今回は、歴史の中を生きてきた人物を描いた映画を5選ご紹介します。
「アマデウス」
作品解説
【アマデウス】(1984) は【カッコーの巣の上で】(1975) のミロス・フォアマンが監督した作品で、アントニオ・サリエリをF・マーリー・エイブラハム、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト役をトム・ハルスが演じています。
まず、この映画で面白いのは、モーツァルトを音楽の天才ではあるけれども、礼儀知らずで下品な若者として描いたことです。私たちはとかく偉人と聞けば、才能と人格がセットになっていると考えてしまうのですが、そうした考えをこの映画では見事に裏切ってくれます。
一方、宮廷音楽家であるサリエリは、モーツァルトの言動に眉をひそめるものの、音楽の才能は一目で見抜きますが、そこから自分がどれだけ頑張ってもモーツァルトの高みまで到達できないことへの苦しみがはじまります。いわば【アマデウス】(1984)は、サリエリが見たモーツァルト像を語ると同時に自らの苦悩の告白の映画ともいえます。
【アマデウス】(1984) が評価されたのは、天才であるモーツァルトの生涯を描きつつ、神が与えたとしか思えない才能を前にして、賞賛と嫉妬の炎で揺れ動くサリエリの苦悩に焦点を当てたことでしょう。そのため映画を見る者には、天才のモーツァルトよりも人間的なサリエリの方に気持ちが揺れ動くのかもしれません。
基本情報
公開・製作国:1984年、アメリカ
監督:ミロス・フォアマン
原題:Amadeus
配給:松竹富士
キャスト:F・マーリー・エイブラハム、トム・ハルス、エリザベス・ベリッジ
外部リンク:https://www.imdb.com/title/tt0086879/
配信:現在配信中のサービスはありません。
Rotten Tomatos
批評家の評価|93%
オーディエンス評価|95%
「リンカーン」
作品解説
【リンカーン】(2012) は、【ジョーズ】(1975) などで知られるスティーヴン・スピルバーグが監督した作品で、エイブラハム・リンカーン役をダニエル・デイ=ルイスが演じています。
【リンカーン】(2012)では、奴隷制廃止を盛り込んだ「アメリカ合衆国憲法修正第13条」の成立から、リンカーンが暗殺されるまでの物語。
この映画の最大の見どころは、法案を成立するためのリンカーンのリアリストなまでの政治的駆け引きです。
リンカーンは共和党の大統領でしたが、現在と違って当時は共和党がリベラル派で民主党が保守派でした。
法案を成立するためには反対派の民主党の議員票がないと成立できないことから、リンカーンは手段を選ばずあの手この手で反対派の議員を懐柔していこうとします。
本作で描かれているのは政治に対するリンカーンの一貫した姿勢であり、そうした姿を見ていると世の中を変えるには理想だけでは動かせないということをつくづく痛感させられます。
映画の舞台は南北戦争が行われた1865年ですが、デモクラシーとは何か、日本の今の政治は百年前のアメリカのデモクラシーにすら到達していないのではないかということを考えさせられるような映画です。
基本情報
公開・製作国:2012年、アメリカ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
原題:Lincoln
配給:20世紀フォックス映画
キャスト:ダニエル・デイ=ルイス、サリー・フィールド、ジョセフ・ゴードン=レヴィット
©2012 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION and DREAMWORKS II DISTRIBUTION CO., LLC
Rotten Tomatos
批評家の評価|89%
オーディエンス評価|81%
「ミルク」
作品解説
【ミルク】(2008) は、監督が【エレファント】(2003) などの映画で知られるガス・ヴァン・サント。
そして、自らゲイであることを公表した活動家ハーヴェイ・ミルク役をショーン・ペンが演じています。
ハーヴェイ・ミルクは、1970年代のアメリカで自分がゲイであることを公言するだけでなく、ゲイの権利を認めるために立ち上がるのですが、そこから彼はゲイの枠を超えて様々な社会的弱者のために声を上げていきます。
この映画を見て共感を覚えるのは、単にゲイの世界を描くのではなく、弱者の権利の為に闘う姿や公私の狭間で悩むハーヴェイ・ミルクの人間的な姿に心打たれるものがあるからでしょう。
マイノリティーや多様性ということが現代ほど声高に語られている時代はないのですが、頭では理解することができても、実際の体験として理解できるという人はまだまだ少ないはずです。
真にマイノリティーや多様性というのが当たり前になるには、まだまだ長い道のりがあるのでしょうが、少なくともその道筋を作った一人が【ミルク】(2008)でのハーヴェイ・ミルクであることは間違いないでしょう。
基本情報
公開・製作国:2009年、アメリカ
監督:ガス・ヴァン・サント
原題:Milk
配給:エイベックス・ピクチャーズ
キャスト:ショーン・ペン、エミール・ハーシュ、ジョシュ・ブローリン
外部リンク:https://www.imdb.com/title/tt1013753/
配信:現在配信中のサービスはありません。
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Rotten Tomatos
批評家の評価|93%
オーディエンス評価|89%
「影の軍隊」
作品解説
【影の軍隊】(1969) は、監督は【賭博師ボブ】(1956) のジャン=ピエール・メルヴィル。
レジスタンスの一人をリノ・ヴァンチュラが演じています。
歴史には必ず光と闇の舞台があります。
学校の教科書で書かれている歴史が光の部分だとすれば、映画で描かれている歴史は闇の部分であることもよくあります。
この映画は、フランスを占領するナチスに抵抗するレジスタンスを描いていますが、英雄のように描かれる人は誰一人としてなく、レジスタンスの中でも密告や裏切り、それに対する処刑などと非情な場面が随所に盛り込まれています。
また、歴史ということを考えると、過去から未来へと一本の道筋がまっすぐ進んでいるように思いがちですが、【影の軍隊】(1969) を見ると、歴史は何本もの糸が複雑に絡み合いながら作られていくということがよく分かります。
この映画で殆どのレジスタンスが殺されるのですが、ラストの場面で生き残った人達もこの先どこかで死ぬことを暗示させて映画が終わります。
そういう意味では、歴史の闇の部分というのは多くの人達の屍を踏み越えて作られるものだと言えるのではないでしょうか。
基本情報
公開・製作国:1970年、フランス
監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
原題:L’ ARMEE DES OMBRES
配給:東和
キャスト:リノ・ヴァンチュラ、ジャン=ピエール・カッセル、シモーヌ・シニョレ
Rotten Tomatos
批評家の評価|97%
オーディエンス評価|94%
「名もなき生涯」
作品解説
【名もなき生涯】(2019) は、監督が【天国の日々】(1978) のテレンス・マリックで、農夫フランツ・イェーガーシュテッター役をアウグスト・ディールが演じています。
この映画は日本人であれば、キリスト教が迫害された江戸時代の踏み絵を連想するのではないでしょうか。
踏み絵では、自分の信仰を偽って生き延びるか、それとも自分の信仰にどこまでも忠実のあまり殺されるかという、人間が生存するうえでぎりぎりの選択を迫れられます。
農夫であるフランツ・イェーガーシュテッターは、自分の信念から兵役を拒否するのですが、度重なる従軍命令や教会の神父や家族の説得にも自らの信念を曲げようとしなかったことから、彼の信念を理解することができない村人達からは迫害され、最後はナチスに処刑されてしまいます。
誰もが同じ道を進んで行こうとするところで、自分だけ信念を曲げないというのは信仰や勇気だけでは片づけられないものがあります。
【名もなき生涯】(2019)で描かれた主人公の信念を支えたものは何だったのか、映画を見終わった後も余韻としてそのような思いが残る映画です。
基本情報
公開・製作国:2019年、アメリカ、ドイツ
監督:テレンス・マリック
原題:A Hidden Life
配給:ディズニー
キャスト:アウグスト・ディール、ミカエル・ニクヴィスト、ユルゲン・プロホノフ
公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/namonaki-shogai
©2019 Twentieth Century Fox
Rotten Tomatos
批評家の評価|81%
オーディエンス評価|72%