【隔たる世界の2人】解説と考察。第93回アカデミー賞にて”短編実写映画賞”を受賞した【隔たる世界の2人】(2021)は、アメリカの社会問題となっている黒人差別について描かれています。制作には、NBA選手のケビン・デュラントとマイク・コンリーがエグゼクティブ・プロデューサーとして関わるなど、リアルな声を取り込んだ作品となっています。
【隔たる世界の2人】あらすじ
NYでグラフィックデザイナーをしているカーター・ジェームズ(ジョーイ・バッドアス)は、愛犬ジーターを溺愛する黒人男性。
ある朝、カーターは好きな女性ペリー(ザリア)の家で目を覚ましました。
幸せな時間を過ごしたカーターはペリーから朝食に誘われたものの、愛犬が待っているからと再び会う約束をして家路を急ぎます。
ペリーの家を出たカーターが余韻に浸りながらタバコに火をつけると、そこに白人警察官のメルク巡査(アンドリュー・ハワード)がやって来ました。
メルク巡査はカーターのタバコを見るなり、怪しいものではないかと疑いの目を向けて所持品検査を強要してきました。
カーターは拒否権を行使しますが、抵抗したとの理由でメルク巡査に押さえつけられ、「息ができない(I can’t breathe)」との主張も虚しく、そのまま窒息死してしまいます。
カーターが完全に意識を失った次の瞬間、目を覚ますとそこはペリーの家でした。
ただの悪夢だったと考えたものの、ペリーの行動や家の間取りにデジャブを感じ始めます。
不思議に思いながらも彼女の家を出てタバコに火をつけると、背後からあのメルク巡査が声を掛けてきました。
カーターはまたしてもタバコに疑いをかけられ、所持品検査を強要されたうえ、逮捕しようとするメルク巡査に抵抗し射殺されてしまいます。
次にカーターが目を覚ますと、またしてもそこはペリーの家でした。
そこでカーターは自分が終わらないタイムループに閉じ込められていることに気が付くのです。
終わらないタイムループに閉じ込められたカーターの運命は……彼のとった行動とは⁉︎
【隔たる世界の2人】解説
本作の背景は”Black Lives Matter”
【隔たる世界の2人】(2021)は、アメリカで社会問題となっている黒人差別について描かれています。
これは、2020年に起きた無抵抗の黒人男性が、白人警察官の暴行によって亡くなったジョージ・フロイド殺害事件を受けて、監督のトレイヴォン・フリーがBlack Lives Matterを題材にした脚本を書きました。
制作には、NBA選手のケビン・デュラントとマイク・コンリーがエグゼクティブ・プロデューサーとして関わっています。
ケビン・デュラントとマイク・コンリーはこれまでにもBlack Lives Matterのような社会問題に対して積極的に発言しており、今回アカデミー賞で短編実写映画賞を受賞したことに喜びを露わにしました。
主人公を演じるのは大人気ラッパー”Joey Bada$$”
主人公カーターを演じるのは、大人気ラッパーのJoey Bada$$。
15歳でレコード会社と契約してデビュー当時から高い評価を受け、学生時代に演技を学んでいたこともあり、俳優としても活動しています。
俳優としての活動時には”ジョーイ・バッドアス”名義で活動しており、【Mr.Robot】(2015)でスクリーンデビューを果たしました。
人種差別に関する繋がり
【隔たる世界の2人】(2021)には、ジョーイ・バッドアスが黒人の苦悩について歌っていたり、作中で主人公が聴いている曲がブルース・ホーンズビー&ザ・レインジの大ヒット曲の”The Way it Is”だったりと、人種差別についていくつかの繋がりがあります。
さらに、この曲を引用したのが2パックの”Changes”であり、彼は黒人人権活動を積極的に行なう中で悲しい死を遂げたという繋がりがあります。
そして、【隔たる世界の2人】(2021)の原題【Two Distant Strangers】は、2パックの”Changes”の歌詞から取られたものという繋がりもあります。
曲中にある、”Learn to see me as a brother instead of 2 distant strangers(俺を遠い見知らぬ人として扱う代わりに、兄弟として見てくれないか)”という歌詞から抜粋されました。
2パックの”Changes”では、自分たちが変わる必要があることや昔のやり方では通用しないこと、生き残るためには自分たちがやらなければならないと歌われています。
このように【隔たる世界の2人】(2021)に込められたメッセージを踏まえると、ラストシーンやカーターの行動に対する受け止め方が変わってくるでしょう。
【隔たる世界の2人】考察
何故カーターは殺され続けるのか
そもそも、何故カーターはメルク巡査に殺され続けるのか。
これは、アメリカの宗教的問題や歴史的背景による黒人差別が関係しています。
決してアメリカ人の全てが人種差別主義者ではなく、過半数以上のアメリカ人は黒人差別に反対していますが、同時に依然として黒人差別をする者も多く存在しているのです。
それにはアメリカの歴史上にあった奴隷制度や、それに準ずる奴隷制度を容認するような宗教的思想が生き続けているから……。
アメリカの警察の原型は、植民地時代に作られた奴隷法に基づいて民兵を中心に作られた組織でした。
その後、警察は導入された黒人法によって黒人を取り締まり、白人の政治的支配を維持していたという経緯があります。
このように、アメリカでは黒人の人権を迫害するような法律が多々存在していたことがあり、時代と共に法律は改定されてきましたが、未だその名残が消えることはないため警察官による黒人差別を生んでいると言えるでしょう。
ペリーの家に突撃してきたのはドアのせい⁉︎
どうやってもメルク巡査に殺されてしまうカーターは、ペリーの家に留まることを選択しますが、結局メルク巡査率いるNY警察に突撃されて銃殺されてしまいます。
この時、メルク巡査は住民であるペリーに住所の確認を行いましたが、番地までは一致していたものの部屋番号が異なっていました。
ペリーの部屋は9号室ですが、メルク巡査は6号室だと思っていました。
これは、ペリーの部屋のドアにつけられている部屋番号のプレートが外れてしまっていたため、9が逆さになっており、6と間違えられてしまったのです。
このプレートについては、初めてカーターがペリーの家にやって来た日にもカーターから直すよう指摘されていました。
【隔たる世界の2人】評価
Rotten Tomatoes評価
100% 70%
TOMATOMETER AUDIENCE SCORE
ロッテントマトでは、批評家の評価が100%となっており、近年多く見られる人種差別問題や白人警官による事件等に注目が集まっていることを意味していると思います。
この作品が何を伝えようとしているのか、アカデミー賞を受賞したその意味をお確かめください。
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