「事実は小説よりも奇なり」とは、イギリスの詩人であるバイロンが「ドン・ジュアン」で書いた言葉ですが、実際に起こる出来事はフィクション以上に複雑で不思議なことがあります。
だからこそ映画の題材になるのでしょうが、映画監督がどのような事件に惹かれて映画を作ったのかということを知ることも映画の楽しみ方の1つだといえるでしょう。
そこで今回は、実際に起こった事件が元ネタになった映画5選を、実話をまじえながら紹介していきます。
運び屋
スタッフ&キャスト
- 監督:クリント・イーストウッド
- 原題:The Mule
- キャスト
- アール・ストーン:クリント・イーストウッド
- 主任特別捜査官:ローレンス・フィッシュバーン
- ラトン:アンディ・ガルシア
あらすじ
年齢を重ねてもなお精力的に映画を製作するクリント・イーストウッドが監督、麻薬の運び屋を演じた映画が2018年に公開された「運び屋」です。
イーストウッド演じるアール・ストーンは、かっては名の知れた園芸家でしたが、90歳になろうとする直前に事業に失敗して一文無しになってしまいます。
そんなときに知り合いのメキシコ人から紹介されたのが、麻薬の運び屋でした。
麻薬を運んでいるとは知らずに仕事を引き受けたストーンでしたが、高額な報酬を手にすることができることから、麻薬を運んでいることに気づいてからも、運び屋を引き受けるのですが・・・・
実際の事件とは?
映画「運び屋」は、「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」に掲載された1本の記事から、クリント・イーストウッドが着想を得たといわれています。
その記事の内容は、DEA捜査官12名が140キロのコカインを運んでいた男を摘発したというもので、摘発されたのは当時87歳だったレオ・シャープという男性です。
映画のアールと同じようにレオ・シャープも有名な園芸家でしたが、ネット通販が主流になってきた頃から稼ぎが激減したことから麻薬の運び屋になりました。
ただし、映画と実話で大きく異なるのは、映画では知らないうちに運び屋になっていたという設定ですが、実際にはシャープ自ら麻薬カルテルに近づいて、少なくとも10年間は運び屋をやっていたということです。
なお、麻薬カルテルがシャープのような老人を運び屋に雇ったのは、合法的な身分証明書を持ち、麻薬とは無関係の人物に見えたからだといわれています。
つぐない
スタッフ&キャスト
- 監督:ジョー・ライト
- 原題:Atonement
- キャスト
- セシーリア・タリス:キーラ・ナイトレイ
- ロビー・ターナー:ジェームズ・マカヴォイ
- ブライオニー・タリス(13歳):シアーシャ・ローナン
あらすじ
イアン・マキューアン原作の「贖罪」を映画化した作品は、小説家志望の13歳の少女ブライオニー・タリスの証言から引き離されてしまった、姉のセシーリア・タリスと使用人だったロビー・ターナーの悲劇を描いた映画です。
この映画では、大人の世界を知らずに物語の世界にいたブライオニーが、セシーリアとロビーの図書館での情事を目撃した嫌悪感と思い込みから、ローラを強姦した犯人はロビーだと告発します。
無実の罪をきせられ連行されたロビーは、減刑のために兵士としてダンケルクへと出征し、セシーリアとの再会を心の支えとするのですが・・・
実際の事件とは?
この映画で描かれているダンケルクの戦いとは、第二次世界大戦でドイツ軍がフランスに侵攻した戦闘のことです。
フランス軍を助けるために派遣されたイギリス軍でしたが、ドイツ軍の攻撃にフランスの最北端であるダンケルクにまで追い詰められました。
追い詰められた英仏軍は、ドイツの攻撃を防ぎながらも輸送船の他に小型艇、駆逐艦、民間船などを動員して、イギリスに向けて40万人の脱出する作戦(ダイナモ作戦)を実行したのです。
映画では、ダンケルクから帰還したロビーとセシリアに、18歳になり真相を知ったブライオニーが2人に謝罪をするのですが、エンディングでは作家になったブライオニーが2人にした本当のつぐないが明らかになります。
殺人の追憶
スタッフ&キャスト
- 監督:ポン・ジュノ
- 原題:살인의 추억
- キャスト
- パク・トゥマン:ソン・ガンホ
- ソ・テユン:キム・サンギョン
- チョ・ヨング:キム・レハ
あらすじ
農村地帯華城市で女性が猟奇的に殺されるという連続殺人事件が発生し、地元のパク刑事と都会からやってきたソ刑事が捜査を担当することになりました。
しかし、これという容疑者を見つけるものの犯人を特定することはできませんでした。
当初は、パク刑事の証拠の捏造や強引な自白に批判的なソ刑事でしたが、猟奇的な殺人事件が発生するうちにソ刑事の中で何かが壊れ始めます。
理性を失ったソ刑事は容疑者に暴行を加え、事件は未解決となり、パクは刑事を辞めてサラリーマンに転職するのでしたが・・・・
実際の事件とは!
この映画の元ネタとなった事件は、1986年10月から1991年4月の間に華城地域で起こった連続殺人事件で、犯人が被害女性を下着で縛る描写は実際の事件をモデルにしています。
映画ではラストの場面で、「異常者が犯人では?」と捜査を進めてきたパク刑事が、実際の犯人は普通の人だったということで慄然とするという場面で終わっていますが、映画が公開された時も未解決の事件でした。
しかし、ポン・ジュノ監督が「パラサイト 半地下の家族」を公開した2019年に、警察は50代の男性を殺人の容疑者として逮捕し、容疑者の男性は殺人に加えて30件以上の強姦を告白したといわれています。
エクソシスト
スタッフ&キャスト
- 監督:ウィリアム・フリードキン
- 原題:The Exorcist
- キャスト
- リーガン・マクニール:リンダ・ブレア
- クリス・マクニール:エレン・バースティン
- デミアン・カラス神父:ジェイソン・ミラー
あらすじ
オカルトブームのきっかけとなった1973年公開の「エクソシスト」は、少女に憑依した悪魔と神父との戦いを描いたホラー映画です。
今この映画を改めて見直してみると、最近のホラー映画にあるような観客を恐怖に陥れるという要素は少ないように思います。
それでも悪魔にとりつかれた少女の首が180度曲がったり、次第に悪魔的な表情になって緑色の液体を吐くショッキングな場面は今見ても色あせないインパクトがあります。
なお、映画の現代である「エクソシスト」は、悪魔祓いの祈祷師という意味で、カトリックにいるエクソシストは実際に悪魔祓いを行っています。
実際の事件とは!
映画「エクソシスト」は原作がウィリアム・ピーター・ブラッティの同名作品ですが、彼の作品は1940年代後半に米国でローマ・カトリック教会の司祭らが匿名の少年に一連の悪魔祓いを行った「メリーランド悪魔憑依事件」がモデルといわれています。
14歳の少年が自称霊媒師の叔母の死をきっかけにして悪魔にとりつかれ、異常な行動やポルターガイスト現象が起こったことから、イエズス会の神父によって悪魔祓いがとり行われました。
しかし、後になってこの少年は「非常に賢いトリックスターで、母親を怖がらせたり、だまそうといたずらをしたりしていた」と言われ、少年自身もすべていたずらだったと証言しています。
戦場のピアニスト
スタッフ&キャスト
- 監督:ロマン・ポランスキー
- 原題:The Pianist
- キャスト
- ウワディスワフ・シュピルマン:ウェイディク:エイドリアン・ブロディ
- ヴィルム・ホーゼンフェルト陸軍大尉:トーマス・クレッチマン
- ドロタ:エミリア・フォックス
あらすじ
1939年にナチスドイツがポーランドに侵攻すると、ワルシャワの放送局で演奏していたピアニストのシュピルマンは、何十万ものユダヤ人が強制収容所送りとなる中で奇跡的に難を逃れます。
そこから彼は生き延びることだけを考えてナチスから逃れていました。
何度も見つかりそうになりながらも、逃げ延びていたシュピルマンでしたが、ある日ドイツ人将校に見つかってしまいます。
しかし、シュピルマンがピアニストだと分かると、ドイツ人将校は彼に1階の居間にあるピアノを弾いてみるように促し、シュピルマンはショパンのバラード第1番を演奏するのですが・・・
実際の事件とは!
この映画は、実在するユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの自伝を映画化した作品です。
ワルシャワでポーランド放送のピアニストとして音楽家活動を始めたシュピルマンですが、ナチスドイツがポーランドに侵攻すると、ナチスドイツによるユダヤ人のホロコーストを目のあたりにします。
その後、家族全員が収容所送りにされましたが、シュピルマンはワルシャワ蜂起の廃墟を逃げ回っていました。その最中に出会った、ドイツ軍の将校ヴィルム・ホーゼンフェルト大尉によって命を救われるのです。
なお、シュピルマンを救ったホーゼンフェルトは、後にソ連軍の捕虜となって1952年にソ連の強制収容所で死去。シュピルマンは、戦後にポーランドの放送局に復帰し2000年に88歳で死去しました。