1951年にDJのアラン・フリードがラジオ番組で普及させたといわれている「ロックンロール」ですが、今ではラジオから流れるロックを当たり前のように聞くだけでなく、街を歩いていてもロックが聞こえてくるくらい日常に溶け込んでいます。
ですが、ロックが当たり前のように聞かれるようになるまでには、長くて曲がりくねった道のりがあったこともまた事実なのです。
そこで今回は、ロックに対する偏見と闘いながらも、自分たちの音楽を歌い続けてきたミュージシャンを題材とした映画5選を、ミュージシャンのキャリアも含めて紹介していきます。
エルヴィス
スタッフ&キャスト
- 監督:バズ・ラーマン
- 原題:Elvis
- キャスト
- エルヴィス・プレスリー:オースティン・バトラー
- トム・パーカー大佐:トム・ハンクス
- プリシラ・プレスリー:オリヴィア・デヨング
あらすじ
2022年に公開された「エルヴィス」は、元マネージャーのトム・パーカー大佐の視点からエルヴィス・プレスリーの生涯を描いた映画です。
カントリー歌手のマネージャーだったパーカー大佐は、ツアー先で出会ったエルヴィスの才能に目を付けたことから、専属のマネージャーになりました。
黒人のミュージシャンのように腰をくねらせて踊るエルヴィスの姿を見て熱狂するファンが現れましたが、黒人差別が続いていたアメリカでは、エルヴィスのスタイルを見て敵視する白人もいたのです。
そんな中、踊らずに歌うという約束でステージに立ったエルヴィスでしたが、自分のスタイルを貫いたことからその場で逮捕されてしまいます。
刑務所に収監されることを恐れたパーカー大佐は、徴兵令に応じてエルヴィスを入隊させるのですが・・・
ポイント!
ビートルズやボブディランといった数多くのミュージシャンに影響を与えたプレスリーでしたが、彼の最大の功績は、ブルースをはじめとする黒人の音楽を自分のスタイルに取り入れたことでしょう。
映画の冒頭を観ても分かるように、プレスリーが出てくるまでの白人の音楽はカントリーミュージックがメインで、観客は静かに演奏を聴いていました。
それがプレスリーによって、白人の若者の間に黒人の音楽のようなグルーヴと熱狂をもたらしたのでした。
「エルヴィス」では、言いなりになりながらも自分のスタイルを貫こうとするエルヴィスと、利益のためにはスタイルを変えさせようとするパーカー大佐の姿が描かれていますが、ロックの女神がどちらに微笑んだかは改めていうまでもないでしょう。
ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男
スタッフ&キャスト
- 監督:テイト・テイラー
- 原題:Get on Up
- キャスト
- ジェームス・ブラウン:チャドウィック・ボーズマン
- ボビー・バード:ネルサン・エリス
- ベン・バート:ダン・エイクロイド
あらすじ
ソウルの帝王とも呼ばれたジェームス・ブラウンの波乱万丈の生涯を描いたのが、2015年に公開された映画「ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男」です。
南部の貧しい家庭で育ったジェームス・ブラウンでしたが、両親に捨てられたことから叔母の家に引き取られます。
少年時代のジェームス・ブラウンは、教会の音楽を支えにして暮らしていましたが、10代の頃にスーツを窃盗した罪で刑務所に入れられてしまいました。
ですが、刑務所の慰問にやってきたボビー・バードと運命的な出会いをしたことで、ジェームス・ブラウンの才能に気づいたボビーは彼の保釈人となって釈放させることで、バンドを結成するのでした・・・・
ポイント!
映画を観ても分かるように、ジェームス・ブラウンのルーツはゴスペルですが、彼の音楽はソウルやファンクだけでなく、ロックンロールやヒップホップなどといったジャンルにとらわれない音楽に影響を与えています。
特に、音楽のサビの部分に関係なく、グルーブするメロディーをループさせるというサンプリングの手法に影響を与えたことから、数多くのラッパーがジェームス・ブラウンの曲をサンプリングしています。
この映画の見どころは、何よりも熱気あふれるジェームス・ブラウンのライブですが、盟友ボビー・バードとの音楽を通じての関係も見逃せないといえるでしょう。
ラブ&マーシー 終わらないメロディー
スタッフ&キャスト
- 監督:ビル・ポーラッド
- 原題:Love & Mercy
- キャスト
- ブライアン・ウィルソン(1960年代):ポール・ダノ
- ブライアン・ウィルソン(1980年代):ジョン・キューザック
- メリンダ・レッドベター:エリザベス・バンクス
あらすじ
ビーチ・ボーイズのメンバーだったブライアン・ウィルソンの栄光と苦悩の1960年代だけでなく、挫折から復活する1980年代を交錯しながら描いたのが、2015年に公開された「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」です。
メンバーとツアーに出るのをやめ、曲作りに専念することにしたブライアン・ウィルソンでしたが、ビートルズの「ラバー・ソウル」に影響を受けたことから、それまでのサーフ・ミュージックとは異なるアルバムを制作しようとします。
しかし、それまでと異なる曲作りを批判する他のメンバーたちや、元マネージャーの父親との確執、さらにはアルバム「ペット・サウンズ」がアメリカで受け入れられなかったことから、次第にアルコールとドラッグに溺れていくようになります。
1980年代になってブライアン・ウィルソンは、自動車販売店の販売員だったメリンダ・レッドベターと出会い、デートを重ねるようになるのですが、そこには常に彼らの言動を監視するブライアンの担当医師のユージン・ランディの姿があったのでした・・・
ポイント!
山下達郎や大瀧詠一といった日本のミュージシャンにも大きな影響を与えたビーチ・ボーイズでしたが、ブライアン・ウィルソンが渾身を込めて制作したアルバム「ペット・サウンズ」は、それまでの曲とイメージががらりと変わったせいか、当時のアメリカでは評価されませんでした。
また、このアルバムではブライアン・ウィルソン以外のメンバーはボーカルとコーラスのみ担当していたということから、ビーチ・ボーイズのアルバムというよりは、ブライアン・ウィルソンのソロ作品といってもいいかもしれません。
ですが、当時はビートルズのポール・マッカートニーがこのアルバムに賛辞を送っているだけでなく、今ではロック史に残る名盤と評価されています。
そう考えると、これは音楽に限ったことではありませんが、素晴らしい作品を創造したとしてもリアルタイムで評価されないというのは、ある意味芸術家の持つ宿命のようなものかもしれません。
ロケットマン
スタッフ&キャスト
- 監督:デクスター・フレッチャー
- 原題:Rocketman
- キャスト
- エルトン・ジョン:タロン・エガートン
- バーニー・トーピン:ジェイミー・ベル
- ジョン・リード:リチャード・マッデン
あらすじ
これまでグラミー賞を5度も受賞し、1970年代のミュージシャンとして最も成功したといわれているエルトン・ジョンでしたが、その一方で私生活での苦悩や困難を描いた自伝的映画が、2019年に公開された「ロケットマン」です。
息子に対する愛情に欠ける母のシーラと、息子に対して関心を持とうとしない父スタンリーのもとで育った少年レジナルド・ドワイトは、祖母アイヴィのすすめからピアノのレッスンを受け、王立音楽院へと進学します。
やがて地元のパブでロック・ミュージックに興味を持ったレジナルドはバンドに参加しますが、アイズレー・ブラザーズのリードシンガーであるロナルド・アイズレーから、有名になりたいのであれば曲を書くように勧められたことから、レジナルドはエルトン・ジョンと改名するのでした。
そして、作詞家バーニー・トーピンと友人になったエルトンは、お互いに曲作りに励み、「ユア・ソング (僕の歌は君の歌)」を生んだことから、スターダムの道へと進もうとするのですが・・・
ポイント!
CMソングや映画、ドラマの主題歌としてこれまで何度も使われてきたことから、日本でも多くの人に愛されている「ユア・ソング (僕の歌は君の歌)」ですが、あのメロディーからは想像もつかないような壮絶なエルトン・ジョンの半生が描かれています。
ミュージシャンの自伝映画を描こうとした場合、イメージを損なうようなシーンを描きたくないというのが本音でしょうが、それにもかかわらずこの映画では自らの生い立ちを赤裸々に描いているという点では評価できるといえます。
母親に永遠に愛されることはないだろう告げられる場面や、レコードにサインしてくれと頼まれ「父に」と書いた後に友人の名前を書いてくれと言われ、「父に」と書いた箇所を二重線で消してしまう場面は、愛を求めても愛されない彼の哀しみがスクリーンを通じて伝わってくるようです。
その一方で、映画の中で使用されているエルトン・ジョンの音楽は、ミュージカル仕立てとなっているのもこの映画の見どころの一つです。
イングランド・イズ・マイン モリッシー, はじまりの物語
スタッフ&キャスト
- 監督:マーク・ギル
- 原題:England Is Mine
- キャスト
- スティーヴン・モリッシー:ジャック・ロウデン
- リンダー・スターリング:ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ
- クリスティーン:ジョディ・カマー
あらすじ
1980年代のイギリスのバンドである「ザ・スミス」のボーカリストであるモリッシーが、スミスのギタリストジョニー・マーと出会うまでの日々を描いたのが、2019年に公開された「イングランド・イズ・マイン モリッシー, はじまりの物語」です。
高校を中退したモリッシーは、ライブハウスに通いながらバンドの批評を音楽雑誌に投稿していました。
その一方で、家計を助けるために就職したものの、職場にはなじむことができず、仕事をさぼっては詩を書くということで自分を慰めていました。
そんなある日に美大生のリンダーと出会ったモリッシーは、彼女の勧めもあってバンドを結成し、初ライブを行うのですが・・・
ポイント!
この映画が他のミュージシャンの映画と一味も変わっているのは、ミュージシャンというよりは日々の生活に生きづらさを感じている、どこにでもいる一人の青年としてモリッシーを描いていることです。
若者特有の、他の人と自分は違うという自意識過剰な部分を持ちつつも、それをうまく表現することのできないもどかしさや苛立ちというものがよく描かれている映画です。
恐らく、クイーンの「ボヘミアンラプソディー」のような映画を期待すると肩透かしをくらってしまうかもしれませんが、若き日のモリッシーが感じるような、自分が社会や世界から受け入れられないというような孤独は誰もが一度は感じるものではないでしょうか。
映画の中ではスミスの音楽が一度もかからないことから、スミスのファンもがっかりするかもしれませんが、この映画は、若き日の無名のモリッシーがどのようにしてスミスのモリッシーになったのかという映画としてみると、なかなか興味深いものがあるでしょう。