【37セカンズ】ネタバレとレビュー。
海外を主な拠点として活動する気鋭の女性クリエイター・HIKARIが監督と脚本を手掛けたヒューマンドラマ。
身体に障害を持つ女性が、過干渉の母親から自立し、自分の人生を探していくさまを描きます。
この記事では、【37セカンズ】のネタバレを含むあらすじや見どころをお伝えします。
【37セカンズ】のあらすじ
生まれた時に37秒間呼吸が止まっていたことで脳性麻痺を患い、車いす生活を送る23歳の女性・貴田ユマ(佳山明)。
イラストが得意なユマは、漫画家でユーチューバーとしても活動する友人・アヤカ(萩原みのり)のゴーストライターをしています。
母・恭子(神野三鈴)はユマを心配するあまり過保護になり、行動をすべて把握し、服装も髪型も母が決める始末です。
自立への思いを募らせるユマは、アヤカの担当編集者に自分の原稿を見せますが、「悪くはないが、アヤカ先生の作品に似ている」と言われてしまいます。
実際はユマが描いているのですから似るのは当然なのですが、少女漫画では勝負できないと思ったユマは、道端で拾った男性向け成人誌の編集部に漫画を持ち込みました。
しかし、編集長の藤本(板谷由夏)から「男性経験がないのに、想像だけでは良い作品は作れない」と原稿を突き返されてしまいます。
自分の殻を破りたい、自分を認めてほしい、母の過干渉から逃れて自由に生きたいと願うユマは、驚きの行動に出るのですが……。
【37セカンズ】のネタバレ
”障害者の性”は一つのきっかけ
当初のユマの行動はとても危ういものでした。
自分の漫画を見てほしいけれど、黒子の存在である以上、少女漫画に自分の活路を見出すのは難しい。
きっかけを掴みかけた成人向けの漫画を描くならば、リアルな男性経験を積まねばならないと出会い系サイトに登録して男性と会うようになります。
とある男性の「障害者が相手でもまったく気にならない」という言葉を信じて再び会う約束をしますが、当日相手は現れませんでした。
ユマは繁華街をふらふらと進み、客引きの男性に「私に相手を紹介してもらえますか?」と頼むのです。
しかし事はうまく進まず、料金だけはしっかり徴収されてしまいます。
不運は重なるもので、ホテルのエレベーターの故障に見舞われますが、ユマのか細い声はフロントのスタッフには届きません。
まさに泣きっ面に蜂状態で立ち往生するユマに、今後の人生を変える出会いが訪れます。
理解者との出会い
ユマと同じく手足が不自由で車いす生活をおくる男性・クマさん(熊篠慶彦)と、クマさんの相手である健常者の女性・舞(渡辺真起子)、そして介護士の俊哉(大東駿介)。
彼らとの出会いで、ユマの閉ざされた世界に、少しずつ外の風が吹き始めます。
クマさんは舞の常連客で、恋人ではありません。
しかし偏見なくクマさんの相手をする舞は、ユマの強い味方になっていきます。
元々サバサバした姉御肌のタイプの舞は、ユマを妹のようにかわいがり、化粧品や洋服を買いに連れて行ったりと面倒を見ます。
と言っても決して押しつけがましくなく、適度な距離感をしっかりと保ち、ユマの希望や意向をきちんと汲み取ろうとする様子が見て取れました。
俊哉も介護士という職業柄もあり、ユマのことをすんなりと受け入れます。
過干渉の母と、自分の漫画の才能を利用するだけの友人から離れて、ユマは初めて自分の生活というものを手に入れていくのです。
母の抑圧
少しずつ自分の世界を開拓していくユマですが、母はそんな変化を受け入れることができません。
ある日、慣れないお酒ですっかり酔って帰宅したユマは、母からスマホを取り上げられ、行動をすべて監視されます。
ユマの母は、はたから見れば “障害を持つ娘を心配し、献身的に奉仕する良き母” かもしれませんが、冷静に一歩引いてみると、いわゆる“毒親”に成り下がっていました。
娘の世話をすることが自分の生きがいになってしまい、子離れができていない親であり、そんな母の行き過ぎた愛情が枷となって、娘のあらゆるチャンスを奪ってしまっていたのです。
【37セカンズ】の結末
隙を見て家を飛び出したユマは、舞と俊哉を頼り、ひとまず俊哉の家に身を寄せることになります。
そして、随分前に父から送られてきた絵ハガキの住所を頼りに父を訪ねますが、ハガキの住所のもとに住んでいたのは父ではなく、父の弟(尾美としのり)でした。
そこでユマは、いくつかの事実を知ります。
・父は5年前に亡くなっていたこと。
・父はいつもユマを気にかけていたこと。
・ユマには双子の姉がおり、タイで学校の先生をしていること。
そしてユマは更に大胆な行動に出ます。
俊哉の助けを借りながら、姉に会うためにタイへと旅立つのです。
無事に姉との対面を果たしたユマは、別れ際に姉からこう告げられます。
「本当はあなたのことを知っていた。でも障害を持っていると聞いていたから、怖くて会うことができなかった。ごめんなさい。」
泣きながら頭を下げる姉に対し、母も会いたがっているから帰国した時は会いに来て、と優しく声をかけるのでした。
その夜ユマは、俊哉に自分の思いを打ち明けます。
たった37秒呼吸が止まっていただけでこのような体になった自分。
もし生まれた順番が違っていたら?
もし呼吸が止まっているのが1秒でも短かったら?
でも、自分で良かった。
過去に”もし”を持ち込まず、自分自身をしっかりと受け入れたのです。
自立とは、母の束縛から逃れて自由に行動することではないし、好き放題に生きることでもない。
ありのままの自分を受け入れて、地に足を付けて自分の人生を生きていくことが本当の自立だとしたら、このときこそが、ユマが自立の扉を開けた第一歩だったと言えるでしょう。
ユマの帰国後、母も少しずつ変化しているようでした。
後日、ユマが描いた一般向けの漫画を読んだ藤本編集長は、知り合いの出版社の人間に「良い作家がいる」とユマを紹介する手はずを整えます。
ユマの人生は、これから大きく変わっていくことでしょう。
【37セカンズ】のまとめ
序盤の展開は“障害者の性”がメインテーマのようにも感じられますが、根底にあるメッセージは異なります。
性への興味を持つのは当然のことであって、それはあくまできっかけに過ぎず、狭い世界で過ごしていた障害者の女性が、自立した1人の人間として自分の道を探していくロードムービーのような仕上がりになっています。
自分の道を切り開くユマと、そんなユマを受け入れていく周囲の人々の様子に、深い感動を覚えることは間違いありません。
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